高次脳機能障害の回復過程

2023年0303 福祉新聞編集部

 脳卒中や事故などによる脳の損傷から、今までできていたことができなくなり、本人、家族も今までとは違う生活環境を余儀なくされることがあります。そこからの人生を過ごしていくには、機能改善を図ることはもちろんですが、周りの人が障害を理解し、生活を考えていくことが必要となります。今回は、高次脳機能障害の人が生活に適応するまでを紹介します。

 

 入院当初は車いす生活で日常動作は介助が必要な状態でした。言葉は理解、表出も難しく表情の変化もありませんでした。退院するころには杖をついて歩けるようになりましたが、言葉は「言うことはしません」が意図を伝えるすべての言葉になってしまい、意識伝達には強い不安が残りました。

 

 退院後、自宅を訪問すると「何を言っても怒る、笑わない、好きなものを用意しても嫌がることが多い」「私が駄目になりそう」と介助者である奥さんの悩む様子がみられました。話を伺い、生活での問題を解決すること、奥さんは障害を理解し、関わり方を習得する必要があると考えました。

 

 数週間後に訪問すると「デイサービスに行くときに嫌がるし、リハビリが来るって言っても準備もしない」との話がありました。本人は「どこに行くのか」は言葉だけでは理解できない、また見当識障害があり、日にちが分からず家での生活以外のイベントに関しては対応が難しい状態でした。

 

 そこでまずは、本人に写真を用いて1週間に行うことを確認し、その後はカレンダーにシールを貼ることを宿題としました。今日が何曜日なのかを確認できるようにすることで1週間の流れを理解できるようにしました。慣れてくると「はいはい」と奥さんの準備が遅いと促すようになるくらいスケジュールの管理ができるようになりました。

 

 奥さんは関わり方を身につけていきましたが、またある日「食パンが食べたいまでは分かったけど、どう食べたいか分からない」との話がありました。失語症があり、言葉や文字で伝えるのは難しい状態です。

 

 そのため、さまざまな食パンの食べ方の写真カードを作成し、本人に選んでもらうことにしました。結果、バターシュガーを塗ったパンが食べたかったことが分かりました。その後も食べ物に関しては写真カードを使用して意図の伝達を図っています。

 

 このように一つひとつの問題に解決策を伝えていくことで介助者の余裕も出てきて、今まではできないことだけが気になっていた生活が、できるようになりうれしかったことを伝えてくれる機会が増えていきます。

 

 高次脳機能障害は目には見えない障害であり、回復するには時間がかかります。今回紹介した人も、初めからいろいろな代償手段を習得できたわけではありません。回復していく過程で関わる人が高次脳機能障害を理解し、関わり方、代償方法のアイディアを伝えていくことが大切だと感じています。

 

 次回からは高次脳機能障害についてのお話になります。そこからみなさまの関わりの糸口を何か見つけてもらえればと思います。

 

筆者=小笠原彩華 蒲田リハビリテーション病院 係長代理

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長

 

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