入浴のための環境と体への影響

2023年0127 福祉新聞編集部

 この季節になると、「ヒートショック」という言葉をよく耳にすると思います。在宅における入浴時の水死事故は冬場に多く、その原因の多くはヒートショックの可能性があると言われています。

 

 浴室は北側が多く、暖かい部屋から寒い風呂場に移動し服を脱ぐため、体温を保とうと血管が収縮して血圧が上がります。お湯につかると血管が広がり急に血圧が下がります。暖かい浴室から寒い脱衣所に出ると血圧が上がります。このような急激な血圧の変動が心臓に負担をかけると言われています。

 

 高齢者は、高血圧や糖尿病、高脂血症などの基礎疾患があることが多く、心筋梗塞や脳卒中につながる心配があります。冬場は特に各部屋の温度差をなくすよう注意が必要です。また、湯船のふたを外し洗い場に湯をかけて温めておく、ぬるめの湯にして長湯をしないなど身体への影響を考慮する対応も大切です。

 

 施設は在宅と違い、居室、廊下、脱衣室の温度差がないように調整されていると思いますが、浴室は常に換気をしている場所です。特に新型コロナウイルス感染症対策のためにこれまで以上に換気を強化しているのではないでしょうか。風の流れで体感温が変わり、高齢者や活動性の低い方はわずかな風が当たるだけで寒いと感じます。入浴介助をしているスタッフは、高温高湿度の環境で動いているため寒さを感じないことが多く、温度、湿度の環境調整には大変苦労されていることでしょう。体が濡れているとさらに体温を奪います。皆さんでもう一度浴室の環境を検討し入浴する人も介助する人にも、少しでも良い環境をつくっていただきたいと思います。

 

 食事をすると消化器官の周りに血液が集中し血圧が低下し、めまいやふらつきなどの症状が起きること(食後低血圧)が知られています。健康な状態では血圧を維持するセーフティー機能が働き、めまいなどが起こることはありませんが、自律神経調節機能が低下しやすい高齢者や高血圧、糖尿病、パーキンソン病の人などは、食後低血圧が起こりやすいと言われています。

 

 浴室は、裸で湯水を使う大変滑りやすい環境です。めまいやふらつきによりバランスを崩し、転倒による骨折や浴槽内での溺水事故につながる可能性もあります。食後の入浴は、一定時間休憩して血圧が安定してから入浴するようにしましょう。

 

 また、急激な体温上昇によりうつ熱状態になることがあります。一気に肩まで湯につからず、徐々に体を温める、半身浴にするなどの対応も必要です。さらに脱水症を起こしやすいため、入浴前後の水分補給を忘れないようにしましょう。

 

 浴室は、湯水を使い体の汚れや洗剤を流すところ。時には汚物が混じっていることもあります。高温多湿で富栄養の環境は、非常に細菌が繁殖しやすい状態です。レジオネラ菌に注意が必要なことをご存じと思いますが、ほかにも油断をすると感染症を引き起こす常在菌が繁殖しやすい場所です。浴槽、洗い場のほか、汚れが残りやすいシャワーチェアの裏、滑り止めマットの裏、足ふきマットなど細部の除菌、清掃が必要になります。免疫力が低下していると感染症を引き起こしやすくなります。もう一度入浴の環境について見直してみましょう。

 

筆者=江連素実 アビリティーズ・ケアネット リハビリセンター長

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長

 

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