入浴の楽しみ

2022年1228 福祉新聞編集部

 寒い季節になり、お風呂が楽しみですね。「日本人はお風呂好き」と言われますが、古代ローマには男女混浴の大浴場がありました。英国のバースという町には古代ローマ人により建てられた大浴場が今も残っていて観光地になっています。治療を目的として医療保険の対象となっているところもあるようです。日本の温泉との大きな違いは水着着用です。日本では銭湯や温泉は裸の付き合いですから、海外から来た人たちはびっくりします。最近は温泉プールや水着着用で入れる露天風呂などもあり、私たちの生活スタイルも少しずつ変わってきたということでしょうか。

 

 古くから日本には湯治という風習があり、疲労回復やケガの後の治療として親しまれていましたが、「農閑期だから湯治に行ってくる」こんな会話を耳にすることもなくなってきました。地域、文化、生活環境により入浴のスタイルはさまざまです。自宅での毎日のお風呂はもちろんですが、時には温泉でのんびり過ごすのも気持ちの良いものでしょう。

 

 私たちはなぜお風呂に入るのでしょうか。さっぱりしたい、疲れを取りたい、リラックスしたい……、理由はさまざまです。自分に都合の良い時間に自由に入り、首まで湯につかるプライベートな行為が、私たちにとっての一般的な入浴だと思います。

 

 しかし、入浴するために何らかの介助が必要になるとそうはいきません。自宅の風呂に入れても時間が自由にならない、施設の風呂は他の人もいて人目が気になる、肩までつかれない、広くて不安など。そして、お風呂に入ってさっぱりするためには、風呂場に行く、服を脱ぐ、体を洗う、湯船に入るなど、さまざまな行為が必要になります。

 

 介助を必要としている人はどんなことを考えているでしょうか。

 

 「今日は汗をかいていないから入らない」「俺は熱い一番風呂しか入らない」など、入浴してもらうために四苦八苦することもあると思います。「ぜ~んぶ洗ってくれ」という人もいるし、「手が使えて足元まで届けば自分で洗いたい。でも手指が不自由、足元に手が届かない。足元を洗うのを手伝って」と思っている人もいるでしょう。

 

 介助をしている人はせっせと背中を洗いながら「気持ちいいでしょう~」とにこやかに声を掛けます。「手伝ってほしいのは足指の間や足の平(裏)なんだけど……」そんな声が聞こえそうです。お風呂の後、楽しいおしゃべりをしながら髪を乾かしてもらいます。「ハイ、乾きました。さっぱりしましたね」。「襟足を乾かしてほしいんだけど……」そんな声も聞こえそうです。

 

 施設での入浴は、ほとんど曜日、時間が決められています。入浴する人の心身機能と脱衣場、洗い場、浴槽の配置や広さなどを考慮しながら、気持ち良く入浴できるよう工夫をしていると思います。

 

 プライベートな行為である入浴は、大きな手術痕がある人にとっては、他の人たちとお風呂に入ることに気後れしておっくうかもしれません。すでにそのようなことへの配慮はされていると思いますが、そのほかさまざまな観点からもプライバシーに配慮した入浴について考えていけると良いと思います。

 

 一方、裸になるからこそ分かることがたくさんあります。必要な配慮をし、さらに「あ~、気持ちよかった」と言える入浴に近づくことを期待しています。

 

筆者=江連素実 アビリティーズ・ケアネット リハビリセンター長

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長

 

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