口腔ケアの重要性

2022年1111 福祉新聞編集部

 まず、「口腔ケア」という言葉を聞いて「歯磨き」と連想される方が多いと思いますが、歯がない高齢者もケアを必要とします。

 

 なぜなら、口腔ケアの目的は、歯を含む口腔内の細菌を減らして清潔に保ち、健康の維持・向上を図ることだからです。口腔内は、細菌が繁殖しやすい湿度、温度になっている場所です。口腔内の細菌が増えると虫歯や歯周病はもちろん、味覚を感じにくくなることで食欲不振に陥りやすくなります。また、増殖した細菌が気管から肺に侵入することで誤嚥性肺炎を引き起こし、重篤化しやすくなります。肺炎は日本の高齢者の死因の上位に位置し、その多くは誤嚥性肺炎によるものとされています=図1。

図1 口腔最近と全身疾患

 

 高齢者の中には、身体の障害や認知症のため自分で口腔ケアが出来ない方もいます。また、高齢になると唾液の分泌量が減少し、乾燥することで口が動かしづらくなることや、口腔内を清潔に保つための自浄作用の効果も減少します。

 

 そのため、介護者が口腔内(入れ歯を含めた)の管理を丁寧に行っていく必要があります。歯ブラシなどの口腔清掃器具で粘膜を刺激することで唾液の分泌も促進されるので、歯だけでなく頬の内側の粘膜なども優しくケアしていくことが大切です。無理に行うと粘膜を傷つけてしまい、炎症が起こることもあります。

 

 ここまで口腔ケアで口腔内を清潔に保つ必要性を述べましたが、実は口腔ケアには二つの種類があります。前述したように、口腔内を清潔に保つ「器質的口腔ケア」と、口腔機能訓練やマッサージなどを行い、食べる・飲み込む・話すといった能力を維持・向上させる「機能的口腔ケア」があります=図2。

図2 口腔ケアとは

 

 食べる・飲み込む・話す能力が低下すると食事やコミュニケーションが取りづらくなり、生活の質(QOL)が低下します。そのことで意欲や活気がなくなり、認知機能の低下やうつ傾向になりやすくなっていきます。

 

 「機能的口腔ケア」として、病院では言語聴覚士が摂食・嚥下機能向上のリハビリテーションを行います。生活場面でも口の周りの筋肉や舌を大きく動かしてもらい、口腔内外のマッサージを行うことは有効です。まずは、食事の前だけでも口や舌の運動を行うのもよいでしょう。

 

 ご存知の方もいると思いますが、医療・介護関連肺炎(NHCAP)というものがあり、四つの定義((1)長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している(2)90日以内に病院を退院した(3)介護を必要とする高齢者・身体障害者(4)通院にて継続的に血管内治療を受けている)からなります。この定義のどれかに当てはまる方に対し、特に口腔ケアの介助を行う際は注意しましょう。

 

 長生きするためにも口腔ケアを安易に捉えず、「口は災いのもと」と本来の意味とは異なりますが、口から健康をつくっていくのも必要だと思います。

 

筆者=前田健志 五反田リハビリテーション病院 主任

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長。

 

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