[新機軸]働き方改革でゆとり 人材確保は経営の要 社会福祉法人つくし会(岩手)
2024年07月12日 福祉新聞編集部岩手県一関市で特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人つくし会。1995年に熊谷茂理事長兼施設長(69)が福祉先進国デンマークの施設を訪問したのを機に男性、女性職員が共に子育て、介護を両立できる働き方改革に着手した。改革のためのさまざまな制度を立ち上げ、6月には画期的な「不妊治療休暇制度」を導入した。つくし会の取り組みが地域の法人、企業にも波及することが期待されている。
「女性が子育てや介護で、好きな仕事を辞めることは、本人はもとより、法人、大きくは県、国の損失だと思いました」と熊谷理事長は働き方改革の動機を振り返った。そのことを強く感じたのは訪問したデンマークで、男女平等の教育と、男性が育児、家事を当たり前にしている姿だった。2017年に「岩手から改革しようと思ったのです」。
職員と共にさまざまな取り組みを始めた。(1)有給休暇の年6日以上取得促進について周知(2)職員出産の際、扶養手当とは別に子育て支援手当を支給(3)年次休暇取得の際、理由を確認し、看護・介護休暇に該当する場合は、率先して取得してもらう(4)職員会議などで、看護・介護休暇制度(すべて有給)、男性の育児休暇制度の詳細と取得促進について厚生労働省発行のパンフレットを配布し、周知徹底――というものだった。すでに男性の介護職員が7カ月の育休を取得済みである。
その財源は、法人が無借金経営であり、利益を職員の処遇に還元することが可能だからだ。熊谷理事長は「入居の人に優しくと言ったって、毎日対応する職員にゆとりがなければ無理だし、それを求めるのは酷です。ゆとりを生み出す環境づくりは経営陣の責任」と言い切る。
1995年から始めたデンマーク研修は全国の法人などにも広がりを見せ、22回延べ300人以上が参加するまでになった。
ところで、人材確保はどの法人、企業にとっても喫緊の課題。小野寺敏理事・関生園施設長(58)は「人間関係が煩わしく、この法人に就職したのですが、比べられないくらい濃い世界で(笑)。私は運転手から始めて、おむつ替えなどは先輩に厳しく教えられました。頑固な利用者からの『ありがとう』の思わぬ一言で現在があります」と話す。
熊谷理事長、小野寺施設長が共に近い将来の法人の課題として人口減、少子高齢化によって、働き手(職員)の確保がいっそう難しくなると指摘。つくし会として、職員の確保は採用、育成、定着までにあるとし、働きがいがある職場につながらなければと、改革を推し進めている。
熊谷理事長はまとめに「こども、高齢者、障害者を支える福祉の仕事は、大切な社会インフラそのもの。法人の存亡は、意欲ある職員にかかっています。男性も女性も、高齢でも働ける人は宝」として二つのことを付け加えた。
一つは「地域貢献は法人が地域の雇用を生み出す。税金を払う人を増やす。施設関連の事業、商品購入などの経済効果です」と岩手県社会福祉法人経営者協議会長でもある立場から話す。二つ目は2011年3月11日の東日本大震災で、津波被害を受けた大船渡市の特養から13人をワゴン車7台で迎えに行ったことだという。「最後まで私たちの法人で精いっぱいサポートさせてもらいました。能登半島地震の施設の人たちもいかばかりかと。半年たった現在も心が痛みます」と結んだ。
社会福祉法人つくし会 1976年に法人設立認可。初代理事長は中目与一氏。77年、岩手県一関市に特別養護老人ホーム関生園(定員50人)▽97年、明生園(定員50人)▽2012年、真生園(定員29人)を開園。このほかデイサービスセンター、グループホームなど11事業を展開する。19年度の「いわて女性活躍認定企業」に認定されたほか、「いわて働き方改革AWARD2023」、24年度「将来世代応援企業賞」を受賞。厚生労働省の「くるみんプラス認定」を目指している。職員数222人(男67、女155)で30、40歳代が中心。