三つの満足を目指す 福祉QCに注力する介護老人保健施設(香川)

2024年0413 福祉新聞編集部
「ヌーベルかんざき」のわんぱく教室で元教師らに勉強を教えてもらう小学生。まさに「三世代集ふ古民家さくらんぼ」(尾崎施設長作)=祐正福祉会提供

利用者、家族、職員の心を満たすサービスを――。この理念のもと、香川県さぬき市の社会福祉法人祐正福祉会(水ト令子理事長)の介護老人保健施設「ヌーベルさんがわ」(定員80人)は多職種協働による福祉QC活動に力を注ぐ。開かれた空間を目指す法人の方針もあり、尾崎民子施設長(80)は「スタッフの人間関係は密でこの4年間、老健の離職者はゼロです」とにこやかだ。

 

老健には医療・看護、リハビリテーション、介護に栄養管理、生活相談など多職種の専門家がそろう。協働は欠かせないと、ヌーベルさんがわ設立3年後の2003年に福祉QCを導入。看護師から事務職員までが課題ごとにチームをつくり、これまで▽口腔ケアと残食減らし(06年)▽外出レクリエーションを増やそう(08年)▽コロナに負けるな~送迎車両を使った全利用者の「ふるさと(自宅)訪問」(21年)などを実践してきた。

住み慣れた環境で

23年度、介護福祉士の新開純代さん(50)と看護師の大嶌比砂子さん(41)ら9人のチームが取り組んだテーマが「いつまでも住み慣れた環境で」。在宅暮らしを望む通所リハの利用者と「ずっと家でみるのは難しい」と悩む家族の思いのギャップを検討した。家族アンケートをもとに点数化した家族ケアの負担は排せつと移動が特に重いと分かり、原因である利用者の下肢筋力の低下を防ぎ、強化するため歩行を促し、遊び感覚で体幹や下肢のトレーニングを月4回から8回へ倍にした。その結果、家族の介護負担は軽くなり、「トイレを汚すのが減り、イライラせんようになった」と喜ぶ声も(第37回中四国ブロック福祉QC最優秀賞)。

地域の居場所も

一方、法人のデイサービスセンター「ヌーベルかんざき」(さぬき市)は毎週土曜、認知症対応型デイサービスの利用者、フリースペース「わんぱく教室」の小学生、コミュニティーカフェで憩うお母さんたちでにぎわう。古民家を改装し、16年から同じ屋根の下で続けている3世代交流の「地域の居場所」だ。

 

その前年にスタートした「香川おもいやりネットワーク事業」の一環でもある。県内194社会福祉法人のうち78法人(40%)、18県市町社会福祉協議会、民生・児童委員らが参画し、地域のニーズに応じた社会貢献活動を県内一円で展開。20年には事業の基金を活用し、コロナ禍でアルバイトがなくなった学生たち約550人分の食料支援を行った。

 

事業運営委員長でもある尾崎施設長は「地域へ出て、困り事に柔軟に対応していくことで職員も成長する」と話している。

 

祐正福祉会 「この子を残しては……」の親心を受け止めた寒川町(現・さぬき市)の元職員ら2人が1993年、社会福祉法人を設立。翌年、障害者支援施設「真清水荘」から始め、さぬき市、高松市、三木町で高齢者複合施設、老健など6施設を運営、職員245人。

 

福祉QC 職員が問題を共有、解決に向けて要因を分析し、サービスの質の向上や業務改善につなげる。日本福祉施設士会(事務局=全国社会福祉協議会)が89年から実践している。