みずのき美術館が特別支援学級へ出張授業 障害者施設がアートを発信(京都)

2024年0222 福祉新聞編集部
出張授業で絵を描く児童たち(撮影=梅田彩華)

JR亀岡駅から徒歩8分。社会福祉法人松花苑(矢野隆弘理事長)が運営する、みずのき美術館(沼津雅子館長)で、9日から同美術館と亀岡小さくら学級(特別支援学級)の児童らの交流授業で生まれた作品が公開されている。美術館は設立から12年、亀岡市の貴重な文化資源となり、インクルーシブな地域づくりの拠点となっている。

 

みずのき美術館は昨年10~12月、地元亀岡小のさくら学級に、アーティストを派遣する「出張授業」を行った。「『生活単元』の授業に協力してほしい」という、さくら学級の教師からの依頼を受け、一昨年から始まった。

 

授業テーマは「木と友だちになろう」。1~6年生の児童47人が現代美術作家、山本麻紀子さんの5コマの授業(ワークショップ)を受けた。担任教師と美術館スタッフが見守る中、児童は植物に触れ、各自好きなやり方で木や生き物を描き、粘土で造形。最後は山本さんが美術館で「地球のおとしもの」という世界観をつくりあげた。

 

市内の支援学級の教師や教育関係者ら約50人が公開授業を見学。「45分間同じ空間で過ごせていることがすごい」「表現に対する見方が変わった」などの声が上がった。

 

松花苑が運営する障害者支援施設「みずのき」は、設立後まもなく、画家の西垣籌一氏を講師に招き、施設内に絵画教室(1964~2001年)を設けた。その中の一部の利用者の作品が公募展で入選したり、1990年代にはスイスローザンヌのアール・ブリュット美術館に収蔵されたりと高く評価された。美術館は、教室から生まれた約2万点の作品を適切に管理し後世に伝えようと2012年に設立された。

 

「管理・維持のコストを考えると、相当な覚悟がいった」と矢野理事長が当時を振り返った。古い理髪店をリノベーションしてできた美術館は、総費用約8000万円(うち3000万円は日本財団から助成)。

 

美術館の在り方を方向づけたのは、07年、松花苑が中心になって行った「なんたんアートリンク」だ。京都府南丹圏域の作業所や特別支援学校に通う障害者とアーティストが、ペアを組んで半年かけて作品を作り、市内各所で展示するプロジェクトで、アートが人や地域を強く結びつけた。

 

現在、美術館は府の助成などを受けながら、「みずのき作品の収蔵、展示、研究」という目的を果たしつつ、コラボレーション型の展示やアートプロジェクトなども手掛ける。キュレーターの奥山理子さんは「社会規範に違和感を抱き、なじめないでいる人たちと、別の新しい価値観をつくり出せるような場所にしたい」と言い、近年のプロジェクトでは障害のある人や引きこもりの人たちに、積極的に参加を呼び掛ける。沼津館長がみずのきの施設長時代に培った相談支援などでのつながりも生かされ、地域共生の新たな拠点となっている。企画展「地球のおとしもの」は3月10日まで金、土、日、祝日に同美術館で開催中。

 

松花苑 亀岡市で1957年に発足した社会福祉法人信光会から分かれ、知的障害者入所施設「みずのき寮」と「かしのき寮」を引き継いで79年に発足。現在は障害者支援施設「みずのき」、「かしのき」を中心に、入所、生活介護、グループホーム、就労継続支援B型、相談支援など総合的に展開。就Bの「ワークスおーい」は近隣の福祉施設、ゴルフ場等からクリーニングを請け負う。ベーカリーカフェ「ぱすてる」は地域住民の憩いの場となっている。