新春インタビュー 江波戸美代・特養ホームシオン施設長 過疎で高齢世帯が増
2024年01月12日 福祉新聞編集部当法人の創業の地、匝瑳市(当時は八日市場町)は千葉県北東部にあり、2006年に八日市場市と匝瑳郡野栄町が合併して誕生しました。植木の生産が盛んで日本有数の栽培面積があります。農業では赤ピーマンが有名で若潮牛というブランド牛を飼育しています。
合併当時の人口は4万2026人でしたが、23年11月末では3万3835人と17年間で約8200人減り、過疎化、少子高齢化が進んでいます。当法人の職員は約950人いますが、企業も含めて市内最大級の法人規模です。
市の高齢化率(23年3月末で36・3%)の上昇に伴い、独居や夫婦のみの高齢世帯の増加が地域の課題となっています。
当法人ではJR総武本線の飯倉駅前に特別養護老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、こども園を整備した「生涯活躍のまち」の一角に地域交流センターも設置。孤独を感じている人の相談に応じ、交流会やカフェなども開催して実態把握に努めています。この取り組みは内閣府の公募事業に採択されました。地域交流センターでは障害者が育てた野菜や加工品の販売なども計画しており、地域の人が集う場を目指しています。
困窮者支援では、隣接する九十九里ホーム病院で無料低額診療を行っており、そこで把握した情報を法人内で共有し、支援につなげるよう検討しています。
市内には五つの特養(地域密着型含む)があり、入所待機者はここ数年約200人で横ばいです。その中で選ばれる施設になるために自立支援介護を進めています。
適度な水分、栄養を取って運動することで自然排便、オムツゼロに向けて取り組み、利用者のQOL(生活の質)を向上させます。これまで2人の利用者が在宅復帰しました。まだ全職員に取り組みが浸透していないので理解を促していきます。
人材確保には苦労しています。その中で、県から「介護の未来案内人」の委嘱を受けた当法人職員が、学校で介護の魅力を伝える活動がテレビで放映されました。これは求人活動に有効だと思っています。
見学に来た学生には、まず施設の行事に参加してもらい、「介護現場は面白い」と思ってもらうことが大事です。現職員の定着も重要であり、若手職員に合った指導や教育が求められます。
これまで地域の福祉ニーズに合わせて、病院から高齢、障害、保育と事業を展開してきました。法人内の連携を強化することで、地域のメリットはより大きなものになると思います。人事労務管理は法人内で統一できておらず、今後の課題です。
24年度介護報酬はプラス1・59%となりましたが、経営基盤が揺らがないようにしてほしいと思います。「結果を出せば加算」という考え方が広がっていますが、介護は競争になじまない職種です。過度な生産性向上や効率化が求められることで歪みが生じ、本来あるべき対人サービスの原点が置き去りにされることを危惧します。
サービスの利用料が上がれば、払えない人を排除してしまうことになります。本来困っている人を支えるのが福祉であり、そのことを忘れないでほしいと思います。
えばと・みよ 広島市出身。76歳。キリスト教徒の家族のもとで育ち、大学卒業後にマーケティング会社などで勤務し、82年、同法人に事務職員として入職。特養施設長の補佐をしながら法人運営を学び、2005年10月に同法人専務理事、19年4月にシオン施設長に就任。現在、県産業教育審議会委員、市社会福祉協議会理事などを務める。41年間の福祉人生で大切にしてきたのは「利用者に、ここは自分の居場所と感じてもらうこと」。
九十九里ホーム 1935年に英国人宣教師、ヘンテ女史が結核患者のために保養所「九十九里ホーム」を創設したのが始まり。時代の要請に応えて同ホームを一般病院に変更し、特別養護老人ホーム、老人保健施設、養護老人ホーム、障害者支援施設、こども園などを開設。現在は3市1町で社会福祉事業を行う。事業規模は約62億円。ヘンテ女史の思いである「愛と希望」に満ちた地域づくりを目指している。