寄付で児童養護施設の命名権も 千葉県に新たな福祉拠点が誕生へ

2023年1109 福祉新聞編集部
実籾パークサイドハウスの全体像

社会福祉法人福祉楽団(飯田大輔理事長)は2024年秋、児童養護施設を核として、高齢者や障害者の施設などを一体的に整備する福祉拠点「実籾パークサイドハウス」を千葉県習志野市に開設する。塀はなく、地域のこどもが自由に使えるバスケットコートなども併設する予定。飯田理事長は「年齢や障害などを問わずに地域の力を引き出す〝大規模多機能型〟の拠点にしたい」と話す。現在、建物の命名権付きで、寄付も呼び掛ける。

 

起工式で挨拶する飯田理事長

高齢・障害者施設も

「エイ、エイッ」

 

9月中旬、京成本線実籾駅から徒歩10分ほどにある広大な敷地に、飯田理事長によるくわ入れの声が響いた。

 

福祉拠点の敷地は6100平方メートル。ここに6人が住む家を8棟建てる。児童養護施設が6棟、一時保護とショートステイが1棟ずつで、すべて個室。児童家庭支援センターも造る。

 

さらに、高齢者の訪問介護や宿泊などを一体的に行う看護小規模多機能型居宅介護(定員29人)も整備。就労継続支援B型事業など障害者も支援する。

 

拠点には塀がないのも特徴だ。責任者の藤堂智典・同法人開設準備室長は「敷地内には散歩コースもあり、新たな街をつくるイメージ」と話す。

キャリアチェンジ

01年に誕生した福祉楽団は現在、3カ所の特別養護老人ホームなどを運営しており、職員は500人に上る。また障害者らがハムなどを作る「恋する豚研究所」も経営している。

 

だが、児童養護施設は今回が初めてだ。21年に千葉県が出した運営事業者の公募に手を挙げ、採択された。

 

かつて飯田理事長は首都圏の児童相談所が運営する一時保護所を見学。その際、こどもらであふれ返る様子が忘れなかったのが応募した理由の一つだという。

 

また、20年以上千葉県職員として一時保護所などで働いていた藤堂さんが「新たな時代の施設をつくりたい」と採択前から転職してきたことも大きなきっかけになったという。

大規模展開のわけ

拠点を「大規模多機能」で展開するのは二つの理由があるという。

 

一つは身近に施設があることで、弱っていく高齢者や働く障害者など多様な人に触れてもらうのが狙い。飯田理事長はこどもの自殺が増えている現状にも危機意識を持っており、「生きることを考えるヒントになるかもしれない」と話す。

 

もう一つは経営的な視点だ。

 

同じ敷地内で複数事業を展開して事務機能を集約することで、運営コストを削減できる。また、職員にとってもほかの分野へ異動できることから、キャリアアップにもつながる。同時に人材の採用もしやすくなるとみている。

寄付も呼び掛け

ただ構想の実現には多くの資金が必要だ。

 

拠点の総事業費は土地を含めて22億円。うち行政からの補助金は3億5000万円で、残りは福祉医療機構などから借り入れる。

 

そのため現在2種類の寄付を呼び掛ける。

 

建設の寄付は、一口300万円と3000万円の2パターン。3000万円の場合、施設の命名権を付与する。共同募金を通じて全額損金算入も可能だ。

 

また、暮らしに使う寄付は1万円から。30万円以上だと、企業研修も受け入れる。

 

寄付集めに向け、施設出身者と連携する仕組みもつくった。出身者の紹介で寄付した場合、一部を直接本人に還元するという。

 

飯田理事長は「虐待予防や里親支援など児童福祉分野の課題は多い。今後もさまざまな挑戦を発信することで、質の向上につなげたい」と話している。