社会福祉法人風土記<17>白皇山保護園 下 地域とともに歩む二つの園

2016年1121 福祉新聞編集部
ビニールハウスで利用者と花づくりをする本田秀雄さん(右)=八尾園

「白皇山保護園」(富山市)は西浦博・第3代理事長(67)が園長を兼ねる救護施設「八尾園」(定員200人)と障害者支援施設「野積園」(谷井晃園長、定員60人)を両輪として活動してきた。野積園には、二つの多機能型障害福祉サービス事業所のほか、生活介護事業所1カ所、町中7カ所に分散する「ふれんどりーハウス」、相談支援センターを擁している。

 

両園に共通しているのが、地域とともに歩む思いだ。「真心で尽くし、感謝される世界。福祉は利益とは無縁です」と西浦理事長は言う。先代・西浦博良の長男。東京の大学を終え、里帰りして地元の銀行に勤めたあと、別の福祉施設で3年間無給で仕事を覚え、2009年理事長に。

 

 

利用者に生きがいを、職員へは仕事の誇りを、そして近隣とつながる─いつもこの点に腐心してきた。そもそも園内生活もリラックスムードだ。月2回だが、八尾園の売店にはアルコールを置く。春の模擬店イベントでは缶ビールも並ぶ。

 

野積園の多機能型障害福祉サービス事業所は、町中にとうふや菓子の工房を開き、販売もしている。とくに八尾園の花づくりの評価は高い。

 

初回に紹介した法人最長老の現役職員、本田秀雄さん(92)との縁だ。元製材所工場長の本田さんら16人は1975年、高度経済成長の影で過疎化が進み、活気を失いつつあった旧・野積村を花いっぱいの明るい地区にと、「宮ノ下村づくり会」を結成。法人や利用者も支援、やがて園の一角にビニールハウス・作業棟を建て、種から育てたサルビア、マリーゴールドなど年1万本をプランターやポット苗に植えて公共施設や保育園などへ月2回、無料で貸し出してきた。

 

利用者は巡回して花を管理、住民との交流の機会になっている。「花づくりは子育てと同じ。毎年のように賞をいただくが、それも園のみなさんのお陰」と本田さんはにこやかである。

 

 

陶芸作業室「西山窯」を新設(1978年)したのも同じ理由だ。西浦理事長や職員は、作陶で知られる水戸・愛友園(茨城県)に泊まり込み、技術を伝授してもらった。電気とガスの窯や、ろくろ約60台を備えており、婦人会、老人会、学校などへ道具付きで「出前講座」に行く。スーパーや銀行などで展示したり、即売会へも出す。

 

また、U字溝などコンクリートブロックの製造と安価販売も地元では喜ばれている。

 

ところで八尾町といえば、忘れてならないのは毎年9月1日~3日にJR越中八尾駅から旧町内一帯で繰り広げられる「おわら風の盆」。胡弓のじょうじょうたる音に誘われ、今年も約24万人の観光客らでにぎわった。中日の朝、利用者30人が駅前広場を清掃した。

 

一方、2年前から、脱・生活保護を目指し居宅生活訓練事業に着手。この春には八尾園のそばに一軒家「希」(のぞみ)を購入、男性2人が調理や買い物、服薬などの訓練をしながら共同生活を始めた。野積園の展開する障害者の自立生活支援と性格は違うが、利用者の自立へ向け労をいとわない福祉の心がそこにある。

 

「地域に対し今後一層、施設を開いていくことが求められるでしょう」。西浦理事長はそう意を決している。

 

 

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