こどもに夜の居場所 社会貢献の輪、21法人に〈滋賀〉

2025年0811 福祉新聞編集部
小学生の弟(右)と一緒に踊る桒野さん。橋元さんは小学生の兄の隣りで食事だ 

滋賀県で「1居場所(施設)1世帯」を合言葉に、生きづらさを抱える家庭で暮らすこどもの、夜の居場所づくりが進んでいる。社会福祉法人などが、施設の部屋を開放して1週間に1度、こどもたちに食事や風呂と、夕刻の団らんを提供するフリースペース推進事業だ。かじ取りは滋賀県社会福祉協議会。約10年前から福祉法人の社会貢献活動として進められていたが昨春、NPOなども参画できるように刷新。13の居場所が21カ所に広がっている。

8月1日夜、滋賀県社協地域養護・はぐくみ係の桒野友美佳さんの案内で、甲賀市の特別養護老人ホーム「レーベンはとがひら」(社会福祉法人近江和順会、生田雄理事長)を訪ねた。

小さな手が職員の腕に

高齢者のデイサービスのフロアに、小学生の兄弟が来ていた。

タブレットのゲームに熱中。職員とフロアで追いかけっこ。夕食は職員が調理した焼肉だった。

「社協の研修で、フリースペースを知り、担当の桒野さんに連絡しました」と、職員の橋元和久さん。桒野さんが仲介して、甲賀市の家庭児童相談室など関係機関が協議。暮らしにくさを抱えている小学生兄弟の利用が決まった。

「フリースペースはとがひら」は今春スタート。毎週金曜日の午後6時から約2時間、夕食を挟んで遊ぶ。担当は橋元さんら職員4、5人。最初は迎えに行っても家から出ず、保護者に送ってもらったことも。職員との会話も少なかった。

それが今……。食事の時に、隣りに座った橋元さんの腕にすっと手を添える。「こっちに来て」と腕をつかむ。

「最近は、ひざに乗ってくることもあります」と、橋元さんは笑った。

ありのまま受け入れる

時々訪ねる桒野さんも自然体で接する。タブレットから流れる音楽を聴いて突然、小学生の弟が踊り出すと、桒野さんも踊った。中庭での花火も、童心に帰って一緒に楽しんだ。

「教えるや、指導するといった関わり方はしません。ありのままを受け入れる。こどもがほっと安心できる場であることを最優先に考える。事業を進める上で、大切にしているスタンスです」と桒野さん。

NPOなどにも門戸開く

事業のスタートは、2015年春にさかのぼる。社会福祉法人などで組織した「滋賀の縁創造実践センター」がこどもたちの居場所づくりを始めた。

「縁」から事業を引き継いだ県社協は24年春、NPOや一般社団法人などにも門戸を開放。民間の寄付金などで創設した「はぐくみ基金」から、年間12万円の運営費を助成、寄付物品も配分した。

昨春からNPO法人や一般社団法人など計8法人が加わり、社会貢献の輪は、県下の19市町のうち、高島市、大津市、彦根市など7市21施設に広がった。

制度化は慎重に

県社協は夜の居場所を、市町が独自に実情に合わせてつくっていけることを最終目標にしている。

ただ、制度にすることについては慎重だ。

「制度になれば、人材も金も都合がつく。でも、そこからはみ出してしまう子が必ず出てくる。自由に対応できるから、一人を取り残さない支援ができる。全てではないけれど、目の前の一人を放っておかない支援を目指します」と草創期から関わっている県社協副会長の谷口郁美さんは話す。

桒野さんは、言った。

「対応できているのは、支援を必要とするこどもたちの数パーセントに過ぎない。社会福祉法人などの協力を得ながら、地域でこどもたちを育む取り組みを広げていきたい」

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