企業シニア層を福祉分野へ〈コラム一草一味〉

2025年0407 福祉新聞編集部

蒲原 基道 日本社会事業大学 社会福祉研修センター 客員教授

福祉事業所の人と話していると、常に出てくるのが、福祉分野での人材確保の問題だ。今後の少子化の進展を考えると、ますます大きな課題になるだろう。

これまで、処遇の改善、ICT(情報通信)機器による業務効率化などが取り組まれているが、この問題について、個別の福祉事業者の間での人材の取り合いになってしまわないよう、よりマクロ的な、他分野から福祉分野への労働移動という視点も併せて重要である。

そこで、企業シニア層への期待となる。退職後のハローワークなどを通じた取り組みに加えて、企業の人事当局と連携して在職中から必要な情報提供などを行い、福祉分野での就職につなげていく事例が出てきている。

多くの企業では、定年後の生活プラン作りを支援しており、そこでマネジメント系の仕事も含めた、さまざまな福祉の仕事についての情報提供があれば、福祉分野への再就職につながるのではないだろうか。

こうした動きを進めるためには、企業側への情報提供に加え、福祉事業所側での認識の変更も重要である。一般的に職員採用に際し、福祉分野での実務経験は評価しつつ、民間企業での経験は評価しないことが多いが、社会人として培った人間力やマネジメント能力などに目を向けていくことが必要である。また、民間企業と福祉事業者のマッチングの仕組みも必要であり、ここには産業雇用安定センターという公的団体に期待したい。同センターは、各都道府県に支部を有し、無料で企業と事業者の橋渡しを行っており、福岡や長崎のセンターは、障害分野の就労支援事業などに、企業退職者をつなげている。

いくつかの事例を聞くと、福祉分野で働くことになったご本人は、直接地域や社会への貢献ができる仕事としてやりがいを感じているという。とすると、人材不足への対応という観点だけでなく、そもそも、高齢者の生き方、働き方の問題としても、こうした動きを後押ししていくことが強く求められている。


元厚生労働事務次官

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