ベビーバスケット~賛育会の挑戦(3) 運営費は法人負担
2025年09月21日 福祉新聞編集部
親が育てられない乳児を匿名で預かる「ベビーバスケット」(赤ちゃんポスト)、病院の一部の人だけに身元を明かしてこどもを産む「内密出産」、「匿名電話相談」という三つの柱を掲げた社会福祉法人賛育会。立ち上げに向けては東京都や墨田区と2年にわたり綿密な協議を重ね、信頼関係を構築した。しかし、こうした新たな挑戦には裏付けとなる法律がないため、運営費用はすべて自前で確保する必要がある。
都からの要望
予期しない妊娠に関する相談についてはこれまで都も力を入れてきた。電話やメール、チャットボットなどさまざまな方法を用意し、産科などへの同行支援も実施。「不安や悩みは1人で抱え込まずに相談を」と呼び掛ける。
そんな都はベビーバスケットを開始する2日前の今年3月28日、賛育会に福祉局長名で文書を出した。
都から賛育会への要望事項で、具体的には乳児と母親の生命の安全確保や、十分な相談体制を求めた。また、行政との連携や、今後都が行う検証への協力についても要請している。
ただ、ベビーバスケットや内密出産は法律に規定がないため、都や墨田区から公的な補助金などが一切ないのが現状だ。
匿名電話相談も含めた三つの柱の運営について賛育会は、少なくとも年1500万円程度掛かると見込んでいる。運営の財源は基本的に寄付を想定しており、マンスリーサポーター(毎月の継続的寄付)も募集している。
内密出産に関しては原則、費用負担を求める方針を掲げている。通常だと出産費用は妊婦健診も含めて70万円ほどだが、健康保険から出産育児一時金として50万円ほどが支給される。しかし、内密出産だと一時金が支給されないため、費用負担が非常に重い。
そのため賛育会は、妊婦の事情に応じ、寄付を活用して費用を支援する方針だ。
支援必要な出産1割
法的位置付けもなく、活動を支える公的な補助金もない。それでも取り組まなければならなかった背景には、賛育会が直面していた現実があった。
24年の賛育会病院の分娩数は743件で、そのうち約1割が出産前から支援を必要とする特定妊婦だった。妊婦の抱える課題はDVや虐待、困窮、心の不調などさまざま。妊婦健診を一度も受けないまま訪れる飛び込み出産も年20件以上あり、年間で受け入れる妊婦の国籍は16カ国と幅広い。
国の調査では、出生数に対する特定妊婦の割合は1%程度とされていることからも、賛育会は強い危機感を持つ。賛育会病院患者サポート部に寄せられる母子支援関係の相談は年間で延べ1700件にも上り、そのうち4分の1が特定妊婦に関する内容だという。
こども家庭庁によると、22年に虐待によって死亡したこどもは、心中を除くと全国で56人に上った。年齢は0歳が25人と最多で、生後間もない月齢0カ月は15人だった。
賛育会でプロジェクトを担う大江浩事務局長は「ベビーバスケットと内密出産は、賛育会病院による日常的な福祉的医療の延長線上にある。決して特別なことではない」と話す。尊い命を救い、母親の苦しみに寄り添う間口を広げることで、悲劇的な事態を少しでも減らしたいと考えている。