学び合いと実践の循環 研究紀要も今秋刷新(滋賀県社会福祉学会)
2025年03月20日 福祉新聞編集部
社会福祉法人の職員や現場研究者らによる滋賀県社会福祉学会(学会長=市川忠稔滋賀県社会福祉協議会長)が、科学的根拠に基づいた「学び合い」と「福祉実践の高まり」の好循環をつくり始めた。全国で類を見ない現場の福祉人による学会に、4年前に県社協が開学した「えにしアカデミー」(上野谷加代子学長)の修了生らも参加。2月21日に行われた第43回大会では、5人が修了後の実践を発表した。
えにしの修了生も発表
学会が開かれた、草津市笠山の県立長寿社会福祉センター。六つの分科会で、自由研究と実践の計33テーマの発表と報告が行われた。
えにしアカデミーで学んだ青祥会、しがらき会、長浜市社協、滋賀県社協、一般社団法人no-deの修了生が発表。その中で県社協の桒野友美佳さんら3人が、奨励賞を受賞した。
アカデミーは、2021年10月、施設職員らの「創造実践の道場」として開学。講師陣は、第一線の福祉実践者や大学教員ら。2年間学んで研究論文を書き上げた修了生には、「滋賀の福祉人マスター」の称号が与えられる。
アカデミーと学会の双方の事務局を担う県社協の副会長、谷口郁美さんは、「えにしの修了生が、学び合いと研究の果実を現場に持ち帰り、科学的根拠に基づいた実践を展開する。修了生は、その現場実践の成果を学会で発表し、さらなる研究と実践の広がりを呼ぶ。学び合いと実践の高まりの好循環が、完成し始めています」。

桒野さん(左)と谷口さん
「好循環」は、実は、アカデミー開学の意図にも含まれていた。「実践に結びつかない理論はダメ」。学長の上野谷さんが常々こう話すのも、「好循環」をもくろんでのことなのだ。
気付いた者が先ず実践
学会の創設は、1983年2月。当時の県厚生部長、鎌田昭二郎(1927~2010年)の指示を受けた福祉課長の辻哲夫さん(当時、厚生省から出向中。のちに厚生労働事務次官、東大特任教授など歴任)らの尽力で創設にこぎ着けた。
鎌田の口癖は、「ニーズに気付いた者がまず実践すべき」。滋賀が生んだ社会福祉の父、糸賀一雄(1914~68)の至言「自覚者が責任者」を彷彿させる言葉だが、約10年間、鎌田に仕えた谷口さんは「鎌田先生自身の言葉でした」。
全国モデルになった発表も
学会での研究発表・報告は、43年間で2200題を超えている。その中には、全国の福祉モデルになった研究発表もあった。
95年に滋賀県甲賀郡7町(当時)の「甲賀圏域」に立ち上がった「障害児・者サービス調整会議」だ。福祉、医療、教育など関係機関全体で協議して、24時間対応型の在宅福祉サービスモデル事業(ホームヘルプサービス、デイサービス、相談支援事業を総合的に提供)を提案。2012年4月の障害者自立支援法等の一部改正によって市町村に設置が義務付けられた、障害者自立支援協議会のひな型になった。
一方、1年間休刊した学会の研究紀要「滋賀社会福祉研究」が今秋、復刊する。社会の「今」を捉えたテーマ性を持たせることなどが検討されている。もちろん、奨励賞の論文掲載は続けて、学会の研究紀要の役割は維持する。