荒れた施設、10年で再生 児童養護施設「入舟寮」(大阪市)
2025年02月18日 福祉新聞編集部
社会福祉法人海の子学園が運営する児童養護施設「入舟寮」(大阪市港区)は養育にアタッチメント(愛着)の考え方を取り入れることで、荒れた施設を立て直した。10年前には、職員への暴言、暴力や窓ガラスの破損などが多発する「戦場」だったが、職員が積極的にアタッチメントを学ぶことで、こどもたちの夢を育む「安心・安全の基地」に変わり、学会やメディアなどにも注目され、「入舟方式」と呼ばれ始めた。
支援現場は焼け野原
「10年前に施設長として戻ってきた時は、本当に焼け野原でした。荒廃した施設にうつろな目をしたこどもたちと、疲れ果てた職員たちがたたずんでいました」
施設長の城村威男さんは、こう話す。
入舟寮は1949年に、大阪湾で艀はしけ生活をする家族の子どもを預かる施設として誕生。現在は2歳から18歳までの約60人が、男女別、年齢別に地域小規模児童養護施設など7ホームに分かれて暮らしている。
城村さんが施設長に就任した2015年春、入舟寮は、こどもの暴言、暴力、問題行動が広がり、職員の離職も相次いでいた。こどもの心情をくみ切れずに実行した集団行事の撤廃や、実情にそぐわない職員の残業削減が原因だった。
復興へ「安心感の輪」
城村さんは「こどもたちの信頼を取り戻すのが第一」と、学識経験者を招いて就任翌年の16年に新養育方針を策定した。
「子どもの権利擁護」や「子どもの育ちを基本にした養育支援」など七つのカテゴリーからなる。このうち、「子どもの育ちを基本にした養育支援」の柱として、①アタッチメントを重視したケア②LSW(Life Story Work)③GT(Grow Together)ワーク④失敗をリカバリー(回復)する力を育てる支援⑤包括的アセスメントの実践――の五つを取り入れ、チームアプローチの考えを基に実践した。
①では、英国の精神科医ジョン・ボウルビーのアタッチメント理論に基づいた「安心感の輪子育てプログラム(Circle of Security Parenting(c))」(COS―P)を導入。当時の主任2人がファシリテーターの資格を取り全8回のCOS―P(安心感の輪)プログラムをはじめ、②~⑤の研修を施設全体で取り組んだ。
「信頼が根幹」「施設は実家」
アタッチメントは、誰かにくっつくことで不安や恐れから逃れて安心、安全を得る欲求を指し、「愛着」と表現される。
だが、城村さんはこう話す。
「『愛着』というより『信頼』ではないでしょうか。絶対、こどもを見捨てない姿勢で養育する。そこから再出発しました」
荒れる前からの職員で、現在、副施設長を務める芝嵜和美さんは、2歳で入所してきた男児を、おんぶしながら養育した。男児は今、23歳。入舟寮の「戦中」に思春期を迎え、衝動や欲求を言葉にせずに行動で表現する「行動化」も激しく、養育が難しい時もあった。でも芝嵜さんは、「いつも味方よ、見守っているよ」と寄り添い、励ました。
「小学生の時の夢をかなえて、四国の水族館で飼育員として働いています。今でも、後援会員の善意を集めた『うみっこ便』でお米などを送っています。仕送りです。うち(入舟寮)は、実家ですから」
自立の力培う「入舟方式」
養育方針は、こどもの支援バイブルとして全職員の共通言語になった。毎年2回、評価・改善を続けて、実践してきた。
効果は、年ごとに上がった。15年度と22年度を比較すると、こどもから職員への暴力行為は89件から18件に、無断外出・外泊は60件から6件に、器物損壊件数は32件から10件に減った。それも職員を敵視したものではなく、こども自身のパニックの中から起きた軽微なものだ。この2年間は、器物損壊はほぼゼロになり、こどもたちの成績も上がっているという。