こどもの五感育む 施設、食材に工夫あり(すずらんだい福祉会、神戸市)

2024年1214 福祉新聞編集部
食育の場にもなっている園庭

来年1月に30年の節目を迎える阪神淡路大震災の被災地・神戸市の北区にある社会福祉法人すずらんだい福祉会(阿部能英理事長)は、こども園、保育園を通じて地域に五感を育む食育の大切さを伝えている。訪れた保育園のある伊川谷地域は弥生、古墳の時代から農耕の盛んなところで、宅地開発が進んだ現在でも米、葉物、野菜の生産地となっている。その地域で食育に力を注ぐ保育園に注目して現地に入った。

認定こども園「ななほし保育園」(定員75人)のこの日の昼食。ランチルームの木製のかわいらしいテーブルに、麦ごはん、麻婆春雨、水菜のサラダ、卵スープの4点が並んだ。こどもたちが夢中で食べ始めた。器から顔を上げた目が笑っている。毎日の献立を考え、食材に気を配る栄養士の田中里歩さんは、ランチルームに隣接する窓の大きく開いた厨房から「あの子、今日は完食してくれた。隣の子はあんなに食べられるようになったとか。こどもたちの成長を感じることが、やりがいになっています」。

保育園から4キロほど下ったところに瀬戸内海に面した明石港がある。コロナ禍前には水産会社から〝海の幸〟が届けられた。こどもたちが日ごろ目にしなくなった魚さばきを園で実演してくれたこともある。驚きでこどもたちは食い入るように見入った。

阿部理事長(49、前ななほし保育園長。現すずらんキッズ保育園長)は「食育は五感(視・聴・嗅・味・触覚)を育むことだと思います」と明快に語る。それを促す工夫が園舎、園庭にある。木造りの内装、部屋と部屋とをつなぐ通路横に、小さなロッキングチェアが置かれた小部屋の絵本ライブラリーがある。こどもたちがちょっと寄ってみたくなる工夫。読み聞かせも大切だが、こどもが読みたいときに絵本を手にすることの喜びを大切にしている。

見上げる木製のらせん階段で2階の幼児保育室に上ると、壁に幾つもの大小の穴があり、下で遊ぶこどもたちが見下ろせる。下からも見上げる顔が見える、こどもの遊び場である。

山陽新幹線沿いにある園庭に目を向けると、小ぶりながら起伏のある造りで、周りにはハーブや梅の木が植えられ、一角にはかまどもある。園庭は「こどもの体幹づくり、五感を育てる土遊び、水遊びの場であると同時に食育の場になっています」と阿部理事長は柔らかくほほ笑む。

お母さんが講師にも

梅の実はジュースに、ハーブはお茶にする。ジュース作りはこどもたち参加の楽しみの一つで、園児のお母さんが講師にもなる。かまどでは焼き芋。香ばしい匂いはこどもの鼻をくすぐる。こどもたちが手作りの五平餅(中部地方の山間地の郷土料理)に挑戦したこともある。

離乳食についても触れておきたい。明石と言えば全国に知られたタイ。そのタイやカレイ、スズキを使って離乳食が作られる。自然の恵みをさまざまな形で生かし、体づくりに取り組む園の姿勢がうかがえる。

阿部理事長は「大学院生の時に、琵琶湖周辺の土地で食べ継がれてきた伝統食から、その大切さを知り、この園でも取り組みましたが、コロナ禍で中止しました」と残念そうに話す。

1年半前にななほし保育園の園長になった上坂資次さん(65)は「とりわけ食育は人格形成に大きな影響を与えるので、保育士、栄養士の皆さんと保護者の協力も得て行っています」。

保育士のリーダー、中村直子主幹教諭は「先日、卒園生が何年ぶりかに遊びに来てくれましたが、立派に成長した姿を見て感動し、つくづく保育に携わってきた喜びを感じます」と話した。

そして、阿部理事長は「90年前に幼児期教育の大切さに着目し、実践してきた曽祖母、阿部槇代の精神と30年前の阪神淡路大震災の教訓をこれからも生かしていきます」と結んだ。


すずらんだい福祉会 1933年、阿部槇代氏が自然環境に恵まれた兵庫県武庫郡山田村(現神戸市北区鈴蘭台)に学校法人鈴蘭台学園の前身である私立神有幼稚園を創立した。戦中、戦後の激動期を乗り越え、地域の幼児教育に寄与。2006年、認定こども園制度が始まる機会に、社会福祉法人を取得した。初代理事長は阿部武蔵氏。神戸市北区に▽すずらんキッズ保育園(定員30人)▽北鈴どんぐり園(定員12人)西区にこども園・カナリアこども園(定員80人)の姉妹園がある。職員数90人。