入浴、夜勤業務を削減 機器活用し最先端介護(特養ホーム六甲の館、神戸市)
2024年12月04日 福祉新聞編集部神戸市の六甲山の中腹、標高415メートルにあり、四季折々の自然が感じられる特別養護老人ホーム「六甲の館」。運営するのは社会福祉法人弘陵福祉会(溝田弘美理事長)。特養(定員70人)と短期入所(同10人)のみの1法人1施設で大きな組織力はないが、「ノーリフトケア」と介護機器を組み合わせた生産性向上の取り組みは業界の最先端を走り、全国から視察が絶えない。
2015年4月に特養入所が原則要介護3以上になり重度者が多くなったことにより、腰痛などが原因で身体がきついと訴える職員が増えた。その対策として持ち上げない、抱え上げない、引きずらないノーリフトケアを取り入れた。19年に本格的に着手し、当初こそリフトで利用者を移動させることに現場の抵抗もあったが、今では職員が長く働き続けられる理由の一つに挙げる。リフトは天井走行式で27台ある。職員の半数以上が腰痛だったが1割未満に減り、利用者の褥瘡は月平均2・25人だったがゼロになった。
入浴業務も人手がかかっていたため、天井走行式リフトを脱衣室にも設置し、車いすから入浴用ストレッチャーに移動できるようにした。また、機械浴槽内で極微細気泡により体を洗える「ピュアット」(金星、東京都)を導入。職員が体を洗う必要がなくなったほか、利用者の肌にやさしく、ボディーソープも要らない。さらに、居室で湯船につからず入浴できるナノミストバス(EINS、大阪市)も取り入れた。それらにより、以前は浴室での介助に8人の職員が必要だったが、おおむね4人に半減した。その分、フロアで手厚いケアができるようになった。
職員の負担となっている夜勤業務も省力化した。マットの下に敷いてバイタルを測定できる「aams」(バイオシルバー、横浜市)を全床に設置。ベッドから転落の恐れのある利用者にはシルエットで動きを確認できるネオスケア(ノーリツプレシジョン、和歌山市)なども導入することで、職員はパソコンで全利用者の状態を把握できるようになった。その結果、夜間の利用者1人当たり訪問回数が6・3回から3・7回に減った。
また、夜間に職員が30分かけて車いすを洗っていたが、自動で洗浄して乾燥させる「リフレッシャーライト2.」(アタム技研、愛知県)を採用したことなどにより、夜勤の空き時間が99分から204分に増え、職員の負担は激減した。今では夜勤が人気になっている。
介護現場では従来の慣れた手法にこだわり、新たな介護機器の活用が進まない実態があるが、溝田理事長は「変わっていくことで人は成長できる。便利になった時のワクワク感を職員も実感してほしい」と話す。六甲の館では常時最新の介護機器を試行しており、利用者が快適に暮らせて、職員が過度な負担なく楽しく働ける未来の介護の在り方を今後も追及していく。
弘陵福祉会 1986年設立。事業規模3億3000万円。職員48人(非常勤含む)。法人理念は「心からのおもてなし」。人間関係を良くするほめるコミュニケーション技術(ほめ達)を全職員が学び、最先端の介護機器との融合を目指す。9月には「介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰」を受賞した。