第9回福祉新聞フォーラム「福祉法人決算のあり方・読み方」の内容を紹介

2024年1011 福祉新聞編集部
左から渡部所長、室岡氏、鳥原氏

3日に開催した福祉新聞社主催の「第9回福祉新聞フォーラム」は、公認会計士渡部博事務所長ら3人が登壇。社会福祉法人の財務諸表等電子開示システム(福祉医療機構)からデータを読み取り、法人の事業計画作りに役立てる方法や「電子帳簿保存法と会計業務の電子化への対応」、消費税に関連した「インボイス制度への対応」について講義した。その内容を紹介。

付加価値を高める計画を

公認会計士渡部博事務所 所長 渡部 博 氏

社会福祉法人の「財務諸表等電子開示システム」のデータを時系列で読むと、全国の社会福祉法人の平均的な収支構造の変化、その変化の要因を把握することができます。

2019年度から23年度にかけて赤字法人の数は7427法人から8566法人に増えました。サービス活動増減差額率も減少しており、赤字予備軍が増えていることが分かります。

赤字法人の数が増え、利益率が減少しているにもかかわらず、職員1人当たりのサービス収益は18年度の635万7000円から23年度の681万9000円と増加し、自己収益比率が減少しています。

このことから、福祉サービスの提供数、稼働率の増加による収益の増加ではなく、補助金の増加による収益の増加であることが分かります。

補助金による収益の増加は利益率と付加価値率の減少となって現れます。付加価値とは法人が生み出す価値のことで、主に人件費と利益の合計です。

この付加価値をサービス活動収益(売り上げ)で割ったのが「付加価値率」で、その平均値はこの5年間で減少しています。

データで判断する限り、補助金による収益の増加は利益や付加価値の増加にはつながりません。付加価値を高めるにはサービスの稼働率を上げること、サービスの対価としての収入を増やすことが欠かせません。

法人が事業計画を作る際は、この「付加価値率」を意識して事業対価の成長性や職員1人当たりの各種指標(人件費、事務費など)を分析し、将来のあるべき姿を描くことになります。

あるべき姿と現在の姿のギャップがその法人の経営課題です。継続的に付加価値を増やすには事業領域を見直すことが不可欠です。

この電子開示システムから、他法人の優れた経営手法をその公開データから学ぶこともできます。法人経営に役立ててください。

会計業務電子化で効率化

公認会計士渡部博事務所 室岡 良行 氏

電子帳簿保存法の対象となるのは所得税法、法人税法上の保存義務者で、電子取引データの保存は必ず行い、電子帳簿等保存、スキャナー保存は任意です。社会福祉法人の場合、青色申告法人以外は収益事業会計のみ、青色申告法人では全会計に適用されます。

電子取引データの保存は改ざん防止措置が必要です。多くの会計ソフトは同法に対応しているので使用中の会計ソフトを確認してください。中には高いセキュリティーを備える会計ソフトもあり、より安全な運用ができます。

スキャナー保存は任意ですが、紙の保存の手間がなく業務を効率化できます。多くのソフトも対応しているので同法の対象外であっても取り組んでほしいと思います。

社会福祉法人の会計業務はより幅広く高度化しており、人材も不足する中、会計業務を効率化するための電子化に対応する必要があります。

まずは電子帳簿保存法の対象かどうかにかかわらず、帳簿等、取引証しょう憑ひょうの保存の電子化を進めていきましょう。

帳簿等の電子データ保存は経理規定などの見直しが必要です。取引証憑の電子データ保存は特段の手続きなく進めることができます。

次に会計処理の電子化です。会計ソフトには仕訳承認フロー機能が付いているものもあるので仕訳伝票の承認業務を電子化することも可能です。内部統制が気になる場合などに使うとよいでしょう。会計システムはクラウド型の方が時間や場所に制約がないため、会計業務を効率化できます。

会計ソフトをインターネットバンキング登録口座と同期すると通帳の内容が会計ソフトにダウンロードできたり、スキャナーと連携すると紙の取引証憑を電子化して会計ソフトに取り込めたりする方法もあります。

さらに、RPAを利用してパソコンでのデータ入力、加工の作業をソフトに代行させることで、人がやっていた業務がなくなり、業務の効率化、生産性向上につながるものと考えます。

インボイスの対応方法

公認会計士渡部博事務所 税理士 鳥原 弓里江 氏

社会福祉法人のインボイス制度への対応方法、デジタルインボイスの仕組みについてお話しします。

適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)とは、仕入税額控除の要件として、原則、適格請求書の保存が必要になる方式のことです。

インボイスとは、売り手が買い手に正確な消費税額を伝える手段のことで、売り手は買い手の求めに応じてインボイスの発行義務があります。

売り手としての立場からのインボイス制度への対応としては、まず、適格請求書発行事業者に登録するかどうかの検討を行います。

適格請求書発行事業者としての登録は、必要性、義務、事務負担の観点から総合的に判断します。特に、サービス提供先から適格請求書の要求がある場合、重要な判断基準になるでしょう。

社会福祉事業の大半は非課税ですが、消費税を課される課税取引もあります。免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を行った場合、登録された日から課税事業者となり、消費税の申告が義務化されます。

買い手としての立場からのインボイス制度への対応は、消費税の申告を本則課税で行っている事業者に限り、対応が必要になります。適格請求書を保存する必要のある取引の保存方法を確認し、検討を進めてください。

次に、デジタルインボイスとは、バックオフィス業務全体をデジタル化する仕組みのことで、日本では欧州で普及している「ペポル」を基礎に、普及・定着への取り組みが始まったばかりです。

デジタルインボイスの普及・定着により、売り手がペポルを通じて提供した請求情報を買い手が受領すると、買い手側の会計システムに自動で仕訳が計上され、さらに、銀行データと結びついて自動で送金処理を行うことも可能になります。

売り手側では、請求情報を作成した時点で、会計システムに自動で未収金が計上され、買い手側から入金があったときに自動で未収金の消込処理がされます。

現状ではデジタルインボイスが義務化される見通しは立っていませんが、将来的に公共事業での導入可能性は否定できません。