買い物難民支えて6年 富士の裾野は坂だらけ(芙蓉会、静岡)

2024年0913 福祉新聞編集部
「これから出発します」=8月22日、芙蓉会で

日本一高い富士山の裾野は坂道が多い。「外出が困難で」と訴える高齢者を支える「買い物送迎プロジェクト」を静岡県富士市の社会福祉法人芙蓉会(内藤好彦理事長)が同市今泉地区で始めて6年。先月、同行した。

「体温は大丈夫、手の(アルコール)消毒をお願いします」。住宅街の一角に設定した集合地点(駐車場)。待っていた6人の高齢者のおでこに体温計をあて、児童養護施設「ひまわり園」の保育士、高瀬歩さん(30)が体調をチェックしていく。コロナウイルス対策だ。いまも警戒を緩めていない。

杖つえを手にした男性らは「みどり園」指導員の稲垣龍之介さん(25)たちに助けられながらキャラバンカー(10人乗り)に乗り込み、10分ほど走って大型スーパーへ。ほかのスタッフのワゴンカーが後を追う。1時間ほどで買い物を済ませ、集合地点へ戻り、次回の参加希望などのアンケートを取って解散する。

休む間もなく2番目の集合場所へ。新しく4人を乗せ、別の大型ディスカウントストアへ向かった。ここでも1時間ほど、めいめい買い物を楽しむ。ときに品物選びの相談に応じ、セルフレジの手伝い、荷物運び、さらに水分補給の休憩までの気配りは、見ていると同行援護に近い。80代の女性を見守りながら店内を回った高瀬さんは「もっと支援回数を増やしてという希望はあるのですが」と、思いは複雑だ。

この日協力したスタッフは内藤理事長(61)=乳児院「恩賜記念みどり園」園長=ら総勢6人。安否コール(スマホ)を使って勤務予定など聞き取りし、人員を調整する。「職場のローテーションに加わらない人が主なスタッフになります。仕事を抜けるので、その分、他の職員の負担になるわけですが、みんなでやっている業務の一環という気持ちを共有してもらっている」(理事長)という。

プロジェクトのきっかけは「みどり園」の前園長、内藤順敬さん(故人)が町内会役員のとき、「近所のスーパーがなくなり困った」と聞き、公用車の空き時間にサポートできないか相談。町内会役員や地元市議、法人施設長らで実行委員会をつくり、試行期間を経て2019年度に始動した。県社会福祉協議会からの補助も少額ながらあった。

現在登録している高齢者は34人。毎月4日間(1日各2回)運行する。1回の参加者は1~10人とばらつきはあるが、6年間で延べ1500人は超える。

月2回は利用する88歳と84歳の2人暮らしの夫婦は「車の運転を5年ほど前にやめた。巡回バスもない。支援は助かります」(夫)と喜ぶ。今泉を含む吉原西部地区は23年の要介護認定率が市内で最も高く、「買い物支援のおかげで他県にいるこどもと同居せず暮らせているという人もおり、細く長くプロジェクトを続けていきたい」と内藤理事長は話している。


芙蓉会 キリスト教伝道者で障害者でもあった渡辺代吉・初代院長(1870~1928)が1903年、富士育児院を創立したのが始まり。現在、児童養護施設や乳児院、特別養護老人ホームなど3施設11事業を展開する。職員210人。