福祉法人のフリースクールが開設9年 「利用者増やしたいが……」(佐賀市)

2024年0507 福祉新聞編集部
コテージ風の「しいのもり」

命に囲まれた自然の中で自分を取り戻そう――。そんな思いから佐賀市の社会福祉法人緑光舎(藤﨑博喜理事長)がフリースクール「しいのもり」を立ち上げてから今月、9年目を迎えた。通ってくる小中学生は年々増えるばかり。社会福祉法人としては珍しい分野での公益事業だが、管理者の河野由美子さん(65)は「行政の助成もなく、なかなかスタッフを増員できない」と板挟みだ。

週5日、毎日5~6人、多い日だと10人を超える小中学生でコテージ風の「しいのもり」はにぎわう。佐賀市の北郊、緑濃い山裾に広がる法人の「保育園ひなた村自然塾」の一角に2016年4月、設立した。市内で唯一のフリースクールだ。

こどもたちは朝から夕方まで日替わりの自分流のカリキュラムで時間を過ごす。自然塾の「わんぱく牧場」で飼うポニーやウサギ、ヤギ、リクガメ、ネコなどを介したアニマルセラピー、ケーキ作りなど料理、ゲームや森の散歩、そして小中学校の元教師が付いての教科学習などいろいろ。

最初は小学生3人、中学生2人の計5人でスタート。17年の教育機会確保法(十分な義務教育を受けられなかった子に学ぶ機会をつくる。フリースクール利用日は登校扱い)が施行されたが、一般の理解はあまり進んでいない。19年度から5年間の新規受け入れは、2人、3人、8人、12人と増えていき、23年度は31人(小学生20人、中学生11人)へ急増。これまでの在籍者67人の平均利用期間は3年(最長8年)で、15人が巣立っていった。

「学校に合わなかったり、特別支援学級の先生が障害対応に素人だったりと、不登校になる理由はさまざま。スタッフや動物と触れ合う中で好きなことを見つけ、エネルギーを充電し、自己肯定感が高まっていく」と河野さん。ほぼ100%高校へ進学している。

課題はスタッフ不足。非常勤を含め、元教師や大学で心理カウンセリングを学んだ職員ら計7人では、心に傷を負い、疲れたこどもたちのケアは手いっぱいの状態。「スクールソーシャルワーカーや児童精神科医から利用の問い合わせは入るが、これ以上増やすと丁寧な接し方ができなくなる」(河野さん)と悩まし気だ。

「しいのもり」の運営に長く携わる理事長の妻、久美子さん(70)=元小学校教員=は「収入は利用料と数人からの賛助会費のみ。人件費の三分の一ほどにしかならないが、苦しんでいるこどもたちや保護者を思うと、続行するしかない」と言う。

フリースクールは1980年代から全国で目立ちだし、現在はオンラインスタイルも。自治体によっては助成金を出している。


メモ 大学で児童文化サークルに出会った藤﨑理事長(72)は卒業後2年間、東京で広告会社の営業マンとして働いた。「こどもに関わる仕事をしたい」と故郷へUターン。幼稚園で7年間勤務する傍ら、非行少年たちの立ち直りを支援するボランティアBBS(ビッグ・ブラザーズ&シスターズ)活動や保護司をしていた。1984年、認可外保育所をオープンし、次第に利用者が増え、2004年に社会福祉法人化。翌年、亡父の残した元ミカン畑(約2万6000平方メートル)の現在地に認可保育所「保育園ひなた村自然塾」を創立した。現在、三つの保育所と「しいのもり」を運営、職員62人。