巨大紙相撲で交流 施設と地域結ぶアート〈来島会・愛媛〉

2025年0629 福祉新聞編集部
板の土俵をたたいて楽しむ今治福祉園の利用者、家族、職員たち=来島会提供

障害の有無にかかわらず世代を超えたすべての人の交流を目指す、愛媛県今治市の社会福祉法人来島会(越智清仁理事長)の障害者支援施設「今治福祉園」(石丸元治施設長、定員60人)で6月22日、初の体験型アートイベント「どんどこ!巨大紙相撲・今治福祉園場所」が開かれた。利用者と家族、職員が一緒になって楽しんだ。

「ハッケヨイ、のこった!」

行司役(職員)の掛け声とともに両陣営の応援団が一斉に木製の土俵(直径約3メートル)の端を思い切り手でたたく。土俵上で四つに組んだ段ボール製の〝力士〟(高さ約1・8メートル)が、振動でヨロヨロと動きだす。先に線の外へはみ出るか、倒れた方が負け。10~20秒で決着がつくや、勝った方から「やったぁー」と大きな歓声が上がった。

この日の「今治福祉園場所」に〝出場〟した段ボール力士は8体。大会前のワークショップで、今治福祉園の入所者(18歳以上54人)はクマ人間、リンゴ型ロボット、パンダなど5体を、利用者の家族と職員も3体を作製。段ボールを切って造形し、色を塗り紙を張って仕上げた。

「人と人の関係性を生み出すアートとして、東京都墨田区など全国各地で数多く開催してきました」と指導する美術家の土谷享さん(49)=高知県佐川町。「障害者支援施設では昨年、南海学園(来島会運営、高知県南国市)で行ったのが初めて。個性が存分に発揮され、豊かな表現の力士がたくさん登場して面白い」と言う。

福祉施設と地域社会を、人と人との関係をどう結ぶかは社会福祉法人にとって中心的な課題だ。来島会が思いついたのがアート。コミュニケーションの手段と捉えた。昨年から南海学園で地域イベントとして開いた巨大紙相撲「南国場所」のほか、今治エリアでは昨年度、「アートの保健室」のタイトルで利用者や職員の成長のため、「ふきあげワークス」(就労継続支援B型・生活介護)の大きなガラス窓に、利用者が木工ボンドで作ったシールで天の川を描いたり、「今治市子育て応援ステーションばんび」(児童発達支援センター)で児童らがコマ(木工)を作り、木の切り株の床で回して遊んだ。

さらに昨秋から、今治福祉園の一室に「おすそわけHUB(拠点)」を開設。法人内で眠っている厚紙、木片、布など使えそうな素材を各施設の創作活動の時間に〝お裾分け〟。高齢者と児童が一緒に工作する企画なども検討中。「放課後等デイサービスを運営する近くの法人とのコラボもぜひ実現したい。紙相撲のときも職員の間には『重い障害があるのに、できるのか』と不安の声はあったが、やれることが分かって職員の意識は変容しています」と、法人本部経営企画責任者の三幡大輔さん(41)は積極的だ。

越智理事長(42)は「支援する側、される側という固定観念がまだあり、インクルーシブな状況には至っていません。施設を地域へ開き、障害の有無にかかわらず交流する関係をつくっていきたい」と話している。


来島会 障害者の居場所が少ないとの「今治手をつなぐ親の会」の悩みを知った元市議の故・越智一博さん(現理事長の父)が1993年、来島会を設立。翌年、今治福祉園を開いたのが始まり。2006年、高知県から県立南海学園を移管。「すべての人が障害を感じることなく自分の意思で質高く暮らすことのできる地域社会の実現」をビジョンに、愛媛、高知両県で障害、児童、高齢、地域連携活動など22施設54事業を展開する。職員約380人。