〈社会福祉ヒーローズ〉生きる力引き出す認知症ケアを
2024年03月29日 福祉新聞編集部社会福祉法人奉優会
認知症対応型デイサービス「中央区立高齢者在宅サービスセンターマイホームはるみ」・東京都
角谷由子さん(28)
角谷さんは根っからのおじいちゃん子。幼少期は同級生より、おじいちゃんとその仲間と遊ぶことが多かった。不思議とお年寄りと波長が合い、一緒にいると落ち着く感じがした。
そんな大好きなおじいちゃんが、角谷さんの名前を忘れて「お嬢さん」と呼んだり、散歩に出て迷子になったり、認知症状が見られるようになった。
セミナーで、認知症の人は昔の思い出より最近の記憶から失っていくことを学び、おじいちゃんの場合も最近の記憶である私のことは忘れてしまったのだと思った。認知症について知れば知るほど、おじいちゃんを助けたい思いと、認知症への好奇心が生まれ、迷いなく介護の道を選んだ。
職場では始めこそお年寄りに囲まれて幸せだと思っていたが、実際に働いてみると、考えていたほど甘くはなかった。訳も分からず暴れたり、突然泣き出したりする利用者に対し、どう対応すべきか分からず困った。
そんな中、重い認知症のAさんと出会った。ある日、あまりにも外出しようとするので一緒に出掛けてみると、Aさんは仕事に行こうとしていることが分かった。そこで、施設を仕事場と思ってもらおうと考え、Aさんにほかの利用者の面倒を見てくれるようお願いした。それからというもの、Aさんは落ち着ていられるようになり、自分の部下を見るような優しい目で見守りをしてくれている。
認知症に加えて末期がんを患っていたCさん。せっかく残された多くの時間を施設で過ごしてもらうなら、1回でも多く笑ってほしいという一心で、Cさんが好きな大道芸人を施設に呼んだ。大道芸をベッドから見ていたCさんは、バルーンの花を手渡されると、ほんの少しだけ口角を上げて笑ってくれた。
認知症ケアの仕事は探偵みたいだと思うことがある。人は好きなことへの潜在意識は残り続ける。認知症の人の内に秘めた好きなことや、大切にしているものを探り、日々のケアに生かすことで心の奥底にある生きる力を引き出していく。それがこの仕事の醍醐味だ。
利用者と目が合ってニコッと笑ってくれたときなど、毎日の何気ないことがいとおしくて宝物だ。認知症ケアの仕事は本当に夢中になれる。