新春インタビュー 村木厚子・全社協会長 社協の可能性に期待
2024年01月09日 福祉新聞編集部2023年6月、全国社会福祉協議会の会長に村木厚子さんが就任されました。厚生労働省の官僚時代は福祉分野を幅広く担当し、退官後も民間の立場でさまざまな福祉団体をサポートしてこられています。そんな経験を踏まえた上で、社会福祉分野におけるナショナルセンターを率いる立場から福祉の現在地と針路を伺いました。
――14年の厚労省退官まで、高齢・障害・こども・生活困窮など幅広く福祉行政に関わってこられました。
私が厚労省社会・援護局長の時に大きく掲げられたのが地域共生社会でした。地域の社会資源が分野を超えてつながり、皆で困っている人を支える社会を目指すものです。
21年からは内閣官房参与として孤独・孤立対策に関わっており、4月には新法も施行されます。企業やスポーツ団体も含め、従来の福祉の幅を広げようとしています。
また退官後は、農福連携や居住支援、再犯防止などにも取り組んでいます。思えば、お声が掛かった事業のほとんどは福祉と何かを掛け合わせるものでした。
――社会福祉法人は、ほかの組織との連携に苦手意識があるように感じます。歴史的に役所の縦割りが影響を及ぼしていると思いますが。
今の社会は、あらゆる分野が福祉とつながりたいと思っていて、期待も高い。しかし、現実的に福祉と言っても対象者ごとに事業者が分かれているのが現状です。
今回、会長に就任し、改めて全社協という存在そのものの重要性に気付きました。全社協は、都道府県や市区町村の社協だけでなく、社会福祉法人の連合体です。また民生委員・児童委員や専門職も参画しています。まさに国内最大の福祉のプラットフォーム。社協自らが自分たちの可能性を自覚することで、大きな役割を果たせると希望を持っているんです。
――地域共生社会の実現には住民の力が不可欠です。私も霞が関3丁目町会の会長をしていますが、民生委員の存在の大切さを感じています。
全国には24万人もの民生委員が活動しています。これは誇るべき制度であり、地域づくりの出発点です。
しかし、民生委員を支える社協や市区町村の存在も重要なんです。地域の課題に気付いた民生委員が社協に相談したら、社協はきちんと受け止めなければならないし、社協から相談を受けた市区町村は絶対に逃げてはいけない。
社協と市区町村が責任を放棄すれば、民生委員が課題を見つけても埋め戻すことになりかねない。責任と信頼の積み重ねが大切です。
――コロナ禍の経済支援策として政府は生活福祉資金に特例を設けて対応しました。短期間で一気に支援体制をつくり上げたのは画期的です。報道が先行して、窓口が混乱するなど現場は複雑な思いもあったでしょうが、福祉を掲げる社協としては絶対にやらなければならなかった。
最初に聞いた時は、大変だろうなという思いと同時に、誇らしい気持ちになったのも事実です。やはり社協にしかできない事業なんですよ。
結果的に全国1700カ所の社協が382万件の特例貸付に対応しました。迅速な送金と丁寧な相談というはざまで苦労されたと思います。
しかし今回、窓口には今まで福祉の対象でなかった人たちが訪れたわけです。視野を広げられたのは、ある意味財産。今後フォローアップと適切な債権管理の両立に向け、全社協で好事例を集めて横展開したいと考えています。
――集団感染となっても受け入れ続けた福祉現場の役割も大きかった。改めて存在の大切さが国民に伝わりました。年末には待遇改善も決まりましたが、当然の流れです。
エッセンシャルワークという言葉も大きな話題になりましたね。未曾有の危機で、福祉の存在が非常に重要だと国民にも浸透しました。待遇改善に対する世の中の理解を得る好機が来ています。
同時に福祉現場には働き方改革なども含めて職場環境の改善に向けた責任があると考えています。
給与だけ見ると、福祉分野より高い業態は山のようにあり、それでも働きたいと思える魅力をどうつくるか。福祉施設が一緒に良い職場環境をつくり、アピールすることが大切だと思います。人がいなければ成り立たない業界ですからね。
将来像考えるべきとき
――近年、社会福祉法人経営者の意識も大きく変わりつつあると感じています。小紙の調査では、地方から首都圏に進出してきた社会福祉法人は220法人。将来を見越して大きな決断をしています。
ニーズのあるところへの進出は理解します。一方で地域の福祉もしっかり守ってほしいという思いもあります。
採算が合わなければ撤退できる株式会社とは違うのです。社会福祉法人には地域に必要な福祉を守る役割があるからこそ税制も優遇されている。ミッションが前提にあることを忘れないでほしい。
全国どの地域でも社会福祉法人がやるべき課題はたくさんあるのではないでしょうか。そういう意味で、社会福祉法人が単体の事業だけを行う時代ではありません。
今は、株式会社が提供するサービスとの違いが分からない人も少なくない。社会福祉法人は自分の地域をどう守るかを考え、変化を恐れないでほしいです。
――従来から社会福祉法人は事業のウイングを広げるべきだと思っていました。今後は会長として、どんなかじ取りを考えていますか。
福祉って命綱なんです。最前線では皆が綱を太く長くしようと頑張っていて、助かりたい人は綱に必死にしがみつくしかない。しかし、細くても全部結んで網にすれば楽に人を支えられます。
もちろん、これはとても面倒なことです。ただ、この国にはお金もないし、少子高齢化も止められない。だからこそ関係者が手をつなぐ必要があるんです。
協議会は本来そのための場所ですが、どうしても形式化してしまうんですよね。しかし社協に参画する社会福祉法人には、志の高い人材が多くいると信じています。
23年度は市町村社協法制化から40周年の節目の年です。これを契機に社協の在り方を示す基本要項の改正にも着手しています。
地域には今何が必要で、それぞれ何をやるべきか。社会福祉法人の将来像を皆で考えるべき時がきています。
むらき・あつこ 1955年、高知県生まれ。78年旧労働省入省。厚生労働省障害保健福祉部企画課長、雇用均等・児童家庭局長、社会・援護局長などを経て、2013年に厚労事務次官に就いた。中央共同募金会や全国老人クラブ連合会の会長も務めている。