地域の交流サロン目指す 佐保川社会福祉会館が竣工(奈良)

2023年1127 福祉新聞編集部
近所の人や職員が三々五々、食事を楽しんだ今年6月の「ほのぼのマルシェ」=奈良社会福祉院提供

奈良市法蓮町の社会福祉法人奈良社会福祉院(上田裕巳名誉理事長、上田玲子理事長)は創業・創立75周年を記念し昨年、佐保川社会福祉会館(鉄筋3階建て)を竣工した。仕事、暮らし、子育ての〝三位一体〟福祉の新たな拠点として、「地域の住民や法人施設の利用者たちが自由に集う交流サロンとして活用策を検討したい」(名誉理事長)と意気込んでいる。

 

会館は市内を南北に流れる佐保川に近い。幼保連携型認定こども園「佐保川こども園」を合築し、2002年に母子寮を新築移転した母子生活支援施設「佐保山荘」(鉄筋5階建て・30世帯)脇に昨年2月完成。法人事務局のほか、1階に障害者の働く「小さなパン屋さんMOMO」(就労継続支援A・B型)の工房と店舗が入り、3階にはキッチンを備えたカフェを新たに設けた。

 

折しもコロナ第6波(オミクロン株)のさなか。竣工式を見送り、関係者だけで祝った。感染への警戒から多人数による対面での飲食は難しく、職員の確保も容易ではないといった事情から3階カフェの正式オープンは当面見合わせ、代わりにイベントとして「ほのぼのマルシェ」を3回開いてきた。

 

障害者が農園で育てた梅やジャガイモを使って調理したランチ、バラエティーに富む人気のパンや菓子などを販売し、訪れた近所の人たちを楽しませた。12月に4回目を企画中だ。

 

「いわば会館は『和と絆』をモットーとする法人精神の〝継承の地〟。発祥はここ佐保山の地です」

 

名誉理事長は幼保連携型認定こども園「佐保山こども園」で説明してくれた。同じ法蓮町内だが、会館とは東へ約2キロ離れたこの園の北側には、聖武天皇と光明皇后の二つの御陵の並ぶ緑深い森が広がっている。

 

戦火さめやらぬ1946年、名誉理事長の父、故・上田政治氏がこどもらを抱えて困窮する7人の戦争未亡人のため自宅の一部と私財を差し出し、働く場である授産所を開いた。その横に母子寮(現「佐保山荘」)を、さらに乳児保育所(現「佐保山こども園」)を建てた。事業出発の地だ。

 

お母さんたちの作業は当初、手内職(米軍家族のストッキングの再生加工、化粧品の販売、旅館の清掃など)だったが、50年代にクリーニング業へシフト。97年には授産所を市の郊外(古市町)へ移して拡大、同時にニーズの高い障害福祉サービス事業所(現・知的障害者授産施設「働く広場・高円」)をオープンした。その分場として2009年に「小さなパン屋さんMOMO」を独立店舗として構えるなど、法人と地域との結びつきに努めてきた。

 

奈良社会福祉院 上田政治初代理事長は37歳の高齢で徴兵され、旧満州(現・中国東北部)で敗戦を迎えた。一時、ソ連の捕虜となったが、九死に一生を得て帰還。「もらった命を大切に100歳まで生き、世の役に立ちたい」と福祉の世界へ乗り出した。現在、奈良県内で母子生活支援施設、特別養護老人ホーム、幼保連携型認定こども園など10施設と付帯事業(学童、子育て支援など)を運営。職員350人。