床屋さんに学ぼう〈コラム一草一味〉
2025年10月18日 福祉新聞編集部
林和彦 ひかり福祉会 代表理事・弁護士
床屋さん(理容店)では客が主役である。これを同じサービス業の福祉施設でできないか考えてみよう。
床屋さんの客になって壁鏡の前に座ると「髪型どうします」「オールバックで」「ハイ」となる。客が契約内容(髪型)を決める。主役は客だ。床屋さんはサービスの履行者に徹している。客への目線は低い。ここには「支援」の観念はなく、契約が普通に機能している。
他方、通所型の障害福祉施設のサービス契約書をみると、事業者は使用者・家族の同意を得て個別支援計画を作成し、これに基づく支援により利用者にサービスを提供するとある。契約によるサービスの履行が個別支援計画に基づく支援に置き換わっている。ここが問題だ。かような「支援」は床屋さんにはない。
契約の発効に伴い個別支援計画による支援が始まる。この時すでに、支援者(サビ管ほか関係職員)による支援は、契約を離れて一人歩きしている。支援を職務とする支援者が自ずと支援の主役に、利用者はその客体になる。よくある支援のタイプは「利用者Aさんのする〇〇は、適切でないので××で支援しよう」となる。利用者の意思を問わずに支援者が決定者になるこの支援は、虐待ではなくても、パターナリズム(家父長的温情主義)だ。なぜ支援者がサービス(支援)の決定者になるのか。支援者の脳裏には初めから支援はあっても契約がないので、床屋さんのように「私は契約内容(サービス)の決定者ではなく、履行者です」との自覚を持てないからだ。
だが「支援者」が変わらなければ、利用者も変わらない。懸案の虐待防止や意思決定支援もおぼつかない。どうするか。契約(感覚)を基に「床屋さんに学ぼう」キャンペーンを手当付き(トークンエコノミー)で行うなどして、支援者はサービスの決定者ではなく、床屋さんのようにサービスの履行者であるとの自覚を持てるよう支援者を「支援」することだ。まず支援者が変わることだ。支援者が変われば、契約債権者たる利用者も、本来のサービスの決定者(主役)に向かうことができる。