福祉法人による“共生型M&A”〈コラム一草一味〉

2025年1203 福祉新聞編集部
雄谷理事長

雄谷良成 社会福祉法人佛子園 理事長

能登半島地震とその後の豪雨で、奥能登の生花店が次々と店を閉じた。今年のお盆も母の日も、地元で仏花やカーネーションを手に入れることが難しくなった。大手スーパーやドラッグストアが期間限定で販売する以外、日常の暮らしから「花」が消えつつある。花は祈りや感謝、そして人の心の交流をつなぐ象徴である。それがなくなるということは、地域の文化が静かに途絶えていくということだ。

そうした現実を前に、佛子園が植物リース販売会社の事業を譲り受ける形でM&Aを進めている。一見すると経済的な動きのように見えるが、本質は「地域に花を取り戻す」ための共生的な試みである。この会社は長年、病院や学校、施設などに緑を届けてきた。代表の高齢化と後継者不在により継続が難しくなったが、事業そのものは地域にとってなくてはならない存在だ。私たちはその思いを引き継ぎ、共に歩むことで障害のある人や高齢者、災害で失業した人たちの雇用の場として再生させることにした。

近年、国内企業が関与したM&A件数(2023年)は約4015件、株式会社による社会福祉事業の買収も相次いでいる。そこにあるのは効率や収益を軸とした「福祉の経済化」である。

一方、私たちが目指すのは「経済の福祉化」、つまり人の営みを軸にした持続可能な地域づくりだ。共生型M&Aの強みは、数字の先に〝人〟を見ていることにある。障害者や高齢者の就労を通じて人材を確保し、廃業により離職する人たちを福祉の人材として活用することで、人手不足で苦しむ中山間地域などの企業が敬遠する場所でも、生活に欠かせない事業を続けていくことができる。

私たちが歩む道は、経済合理性の延長線ではなく、人と地域の暮らしをつなぐための社会的選択である。地域の資源や雇用を守るための社会的選択肢として社会福祉法人が企業を承継することは「地域を支える新しいかたち」。

福祉は、理念を軸に社会貢献と経営を両立する時代へ向かっていく。

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