ライフストーリーワーク〈コラム一草一味〉

2025年1113 福祉新聞編集部
草間教授

草間吉夫 新島学園短期大学 教授

筆者は生後すぐから高校まで児童福祉施設で生活したが、どのような経緯で入所に至ったのか、その理由を知らないまま退所した経験を持つ。だからなのか、つい己の境遇をネガティブに考えてしまう傾向が強かった。 他方、児童養護施設の職員からは、こどもたちの共通した傾向の一つに、「自己肯定感が低い」という声をよく耳にする。施設職員をしていた筆者も、そのことを何度か感じてきた。児童養護施設ばかりではなく、児童自立支援施設や乳児院、里親の元で暮らすなど社会的養護下のこどもは、概して自己肯定感が低いということだ。そのため現場では、こどもたちの得意なことや関心のある事柄、楽しく取り組むストレングス視点に着目した関わりにより、自己肯定感を高める援助に力を注いでいる。

筆者が児童指導員の駆け出しであった三十数年前、こどもたちが自分の境遇を知る一助になることを意図して月1回、職員とこどもが交互に自身の家族について話す会議を行っていた。15カ月ほど続けたが、意図した変容がこどもたちに見られたかは定かではない。処遇評価せずに終えたからだ。こどもの状況を踏まえて開催しなかったこと、児童福祉司や心理職などと連携せずに実施したことは反省点になる。

こどもたちが自身の置かれた状況の理解促進を通して、自己受容を促し自己肯定感を高める効果的な援助法を紹介したい。英国で開発され、才村眞理氏が日本に伝えたライフストーリーワーク(以下、ワーク)である。信頼する大人とこどもが共同で、生い立ちや家族との関係を整理し、過去から現在、そして未来をつないで前向きに生きていけるようにする援助法がワークである。

ワークを導入していない東日本のA児童養護施設では、2016年から22年に退所した児童の半数が、1年以内に退職または大学などを中退したそうだ。ワークは現在、児童養護施設や里親などで導入され、効果ありの報告が相次いでいる。自己肯定感が高い人ほど危機への耐性力があるとする心理学的知見を踏まえると、ワークの可能性はここにあろう。A施設をはじめ、まだ導入していない社会的養護の現場において必要性は高い。今後の普及が望まれる。

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