ベビーバスケット~賛育会の挑戦(2) 都、墨田区、社会福祉法人の連携
2025年09月14日 福祉新聞編集部
東京都墨田区の社会福祉法人賛育会(平野昭宏理事長)が今年3月末から開始した「ベビーバスケット」(赤ちゃんポスト)。2022年10月に法人としての取り組みを組織決定し、立ち上げに向けて動いてきた。具体的にはどのように進めてきたのか。
理事会決定から7カ月後の23年5月、法人内に立ち上げた「赤ちゃんのいのちを守るプロジェクト」(PJ)のメンバーである病院長や常務理事らは墨田区役所で、山本亨区長と向き合っていた。
賛育会側は課題を抱える母子の保護と救済に向けた構想とともに、ベビーバスケットの設置について説明。山本区長は賛育会の構想に理解を示した上で「広域的な事業になるため、都とも連携する必要がある」などと応じた。墨田区の仲介もあり、すぐに都も含めた3者合同会議が立ち上がった。
協議では、賛育会が事業計画の試案や運営に関する資料などを作成。都と区が法的な論点整理を行い、相互に詰める作業が2年にわたって続いた。3者協議とは別に、賛育会は警視庁や地元の本所警察署と事件性があるケースへの対応も協議したという。
ベビーバスケットは、都内では前例も法制度もないため、都も手探りの状態だった。
都福祉局家庭支援課の安藤真和課長は「都は赤ちゃんポストを規制する権限もなければ、推奨するわけでもない。ニュートラルな立場だ」と説明する。
とは言え、ベビーバスケットに乳児が預けられれば、児童相談所を含む都福祉局が対応することになる。そのため「設置によって起こり得るリスクをできるだけ想定して賛育会に伝えた」と安藤課長は振り返る。先行する熊本の慈恵病院も視察し、課題を洗い出した。
一方、賛育会プロジェクトの大江浩事務局長は「ベビーバスケットは裏付けとなる法律や制度がなく、民間の一病院だけでは限界がある。都や墨田区と信頼関係を深めるためにも2年間は必要な時間だった」と語る。
3者協議も踏まえ、賛育会はベビーバスケットとともに、病院の一部の人だけに身元を明かしてこどもを産む「内密出産」と、匿名で予期せぬ妊娠に悩む人のための夜間の電話相談「妊娠したかもSOS」という三つの柱を打ち出すことを決めた。
支援への期待
内密出産は赤ちゃんポストと同様、規定する法律はなく、国としても推奨しない立場を取っている。
ただ、22年に厚生労働省と法務省がガイドラインを作成。あくまで出産を希望する人は身元を明らかにすることが大原則だとし、医療機関には母親を説得するよう要請した。それでも内密出産に至った場合、母親から得た情報について病院が保存と管理をするよう求めている。
課題を抱える人を支援する期待がある一方、こどもの出自を知る権利をどこまで保障するかは現在も課題として残されている。
一方、ベビーバスケットに先行して24年7月からスタートした匿名電話相談については相談員らが週3回対応する。また、ウェブサイトには相談フォームを設置。予期せぬ出産に伴う具体的な困りごとへの情報提供も行う。
匿名の電話相談は、乳児の遺棄や虐待死につながらないよう予防的に介入。家族すら頼れず、孤立出産のリスクを抱える妊婦は内密出産で受け入れ、母子の生命を保障する。ベビーバスケットは、緊急状態にある母子を助ける最後のとりでという位置付けだ。