心に触れる関わりを 障害児・者に音楽療法(あすはの会・東京)
2025年04月20日 福祉新聞編集部
都心から西に約35キロ離れた昭島市に、社会福祉法人あすはの会(本部・福生市、米山岳廣理事長)が運営する児童発達支援センター「子ども発達プラザ・ホエール」がある。隣接する福生市の障害者支援施設「福生学園」とともに、障害児・者支援の一つとして全国でも珍しいという音楽療法を取り入れている。
法人理事の諏訪潤事務局長(61)は「幼児から高齢の人まで知的障害支援をしてきましたが、その一つに音楽療法があります。創設期から30年以上、常勤音楽療法士を配置し、非常勤も含め、5事業所で実践しています」。
ホエールでは、音楽療法士の杉本奈穂さんが、目の前に座るこども(未就学児)に向かって、明るく楽しそうに歌う。導かれるように、保育士、児童支援員に寄り添われたこどもたちはタンバリンをたたいたり、ラウンドベルを鳴らす。トランポリンの上で、大きく体を動かしながら、うれしそうに跳ねる。六つのプログラムは杉本さんが、これまで4事業所などの経験から生み出されたオリジナル。約30分のセッションを毎日2~3組実施している。絶えず「上手になったね」「良かったね」とこどもに自信を持たせ、時に達成感を持てるように語り掛ける。保育士のまなざしは健やかな成長を願う姿そのもの。「毎日一つひとつ小さく積み上げられる体験が、こどもの生活する力を育みます」と杉本さんは話す。
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福生学園では二十数年にわたって音楽療法に取り組んできた東村由美子さんのセッションを見せてもらった。成人を対象にしているが、東村さんのピアノから流れる音に合わせて、利用者の男性が目の前に置かれた、都道府県ごとに切り分けした手作りの青い地図を探す。真剣なまなざしに応えるように即興で弾く。地図を見つけた瞬間の満足そうな顔。
東村さんが長い経験の中から、考え出したプログラムの一つ。「言葉では難しくても、音楽でならコミュニケーションをとることができ、とびきりの笑顔に出会うことができます。そんな時に幸せを感じますね。そのために音楽もプログラムも個人に合わせてじっくり考えています」。
こんなふうにも語る。
「この仕事に就くまで教職(音楽)でしたが、もっと心に触れる関わりをしたいと思っているときに出合ったのが音楽療法でした。音楽療法を通して多くの笑顔を見ることができます」。加えて「音楽療法以外にも人とのコミュニケーションを取る方法がたくさんありますが、特に若い人にはいろいろな方法で、わくわくする体験を味わってほしい。私は人と人とが温かく響き合うこの仕事を生涯現役で続けていきたい」と朗らかに締めくくった。
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武蔵野大名誉教授でもある第3代の米山理事長(77)は「初代の前田弘文園長(1949~2002)が、青梅市の施設職員だった時、保護者からの相談を受け、山の中の施設ではなく、週末には利用者が外泊できる、家族と共に居られる場所として、福生学園を設立しました。法人の理念として、利用者、職員の自己実現を掲げており、その一つが音楽療法でした。それに加えて30年の節目の昨年、利用者の皆さんの絵(造形)の展覧会を開き、作品集『希望のアート2.』を刊行しました。絵は言葉を使わない心の表現、心の叫びです。見る人とのコミュニケーションを取ることができます」とも話した。
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「この法人の利用児・者を思う多くの職員、音楽療法士はもとより、言語聴覚士、作業療法士らも加わった総合力が底力になって、先のコロナ禍を乗り越えました。これからも〝希望〟を旗印に」と、福生市地域自立支援協議会長でもある諏訪事務局長は力強く語った。