6年ぶりに母子生活支援施設が誕生 児相とのパイプも活用(宮崎)

2024年0620 福祉新聞編集部
みどりホームの事務室。左奥が中村施設長

6年前にすべての母子生活支援施設が消えてしまった宮崎県に5月、新たな母子施設ができた。石井十次の理念を礎にした社会福祉法人石井記念友愛社(同県木城町)が、都城市に開設した「みどりホーム」。無認可保育所の跡地を買い取り、県と都城市の支援を取り付けた。DV被害や生活困窮の母子が増える中で、母子がひとつ屋根の下で暮らせる母子施設が見直されている。入居はまだ1世帯だが、今後の実践と活動の発信が期待される。

「用地を安く売却してくれた地主の方は、長い間、保育事業を展開してきました。敬意を表して、保育所の名前『みどり保育園』の『みどり』を引き継がせてもらいました」

石井記念友愛社理事長の児嶋草次郎さんは、こう話した。児嶋さんは、「児童福祉の父」と言われた石井十次のひ孫に当たる。

快適な住環境

みどりホームは3階建て。1階は事務室と集会室や学習室。間仕切りして、保育室にも使える。2階と3階はキッチン、トイレ、浴室を備えた1LDKとLDKの個室が計10部屋あり、快適な空間になっている。

2016年のこと。夫のDVに苦しんでいた法人の児童養護施設出身の女性を、職員が子ども1人と共に救出。ある母子施設に入所する手続きをしようとした。ところが、窓口で「施設は年度末で閉鎖します」。施設見学に行くと、建物は老朽化。共同トイレで共同浴室。ひと昔前の仕様だった。それでも行く当てのない母子は、辛抱して入所した。

施設は17年3月末で閉鎖。別の母子施設もその後、閉鎖となり、18年3月末に県内の母子施設はゼロになった。救い出した母子は、法人のサポートで転居した。

施設長の中村健児さんは、都城市社会福祉協議会の事務局長を定年退職後、昨年4月に入職。開設準備を進めてきた。

「母子施設は児童福祉法に基づく施設。母親だけでなく、こどもの最善の利益を実現することが使命です。母子にとって、住まいの環境整備は不可欠です」

総施工費は約2億7000万円。国と県が約1億5600万円、市が約2600万円を負担、残り約8800万円を法人が借り入れも含めて担った。

将来を見据えた体制

入居対象は18歳までのこどもと母親。5月1日の開所時点での入居は1世帯だが、問い合わせが寄せられており、中村施設長はニーズを感じている。

職員は7人。社会福祉士、保育士の資格や教員免許を持つスタッフもいる。

こどもたちの学習支援や、母親への就労支援を想定している。家具や家電を備えたショートステイの部屋も用意した。予期せぬ妊娠など課題を抱えた地域の女性の「産前産後ケア」も行っていく方針だ。

スケールメリット生かす

みどりホームの隣には、法人が運営する小規模児童養護施設がある。このほか都城市では、乳児院、児童家庭支援センターを運営している。そこに母子施設が加わった。

「四つの施設がうまく絡み合う、スケールメリットを有効に機能させたい」と中村施設長。

法人には、これまでの実績から児童相談所とのパイプもある。児相の情報の中で、母子施設を選択肢と捉えられるケースもある。乳児院で育った子どもを母親が「引き取りたい」と言ってきた場合などは、みどりホームでの生活も視野に入れられる。

児嶋理事長は「国が社会的養育ビジョンで示した『家庭優先原則』を母子について言うのなら、母子施設が核です。産前産後のケアも含めて、『あそこに行けば助けてくれる』という評判につながるような実践を重ねて、発信を続けたい」と話している。


母子生活支援施設 2011年10月に全国で261施設、3850世帯が暮らしていたが、12年後の23年11月には215施設、3135世帯に減った。入所定員は4441世帯だが、実際の入居は3135世帯で充足率は約7割。需要が多いはずなのに定員割れが続き、「発信」が課題になっている。