社会福祉法人風土記<1>九十九里ホーム 中 「行政施策の一歩先を行く」
2015年04月16日 福祉新聞編集部時代と共に世の中の福祉ニーズは変化する。九十九里ホームのそれは都市部の核家族と人口の高齢化。お年寄り対策だ。
皮切りは1978年、特養ホーム(松丘園)の病院への併設だ。サナトリウムだっただけに敷地は大きい。その一角でスタートした老人福祉事業。翌年には早くも地元の強い要望に応え、100床へ倍増している。
実は自治体は、やがてくる高齢社会の大波を既に心配していたようだ。「こんな施設にしよう、あんな介護がいいと、行政の担当者とよく話したものです。『これからは高齢者の時代だ』と。意気に燃えてました」。井上峰夫理事長(66)は自身まだ若かった当時をこう振り返る。
こんなエピソードも。ある日、病院に面会者が訪れた。「ばあちゃん、ここかな」。いくら患者名簿を繰っても名前はない。隣の特養に問い合わせた。「こっちにいますよ」。家族は入院と入所を混同していたのだ。
今と違い、老人ホームへ親を預けるなど〝親不孝〟〝棄老〟と後ろ指をさされかねない時代であった。歓迎されるのは病院。大切に看病しているとの親思いのイメージだ。社会的入院の一因でもある。だが、大家族で在宅ケアを維持できていたホーム周辺の農村エリアに比べ、都市部の住民からは病院併設の介護施設は重宝がられた。
その思いをくむように、法人施設は年を追って拡大していく。
▽病院に新病棟ならびにリハビリ棟新設(1981、82年度)
▽養護老人ホーム(瑞穂園・50床)の経営を市から委託(85年)
▽周辺3市町よりの委託でデイサービスセンター建設(87年度)
▽国県の補助で老人保健施設「ミス・ヘンテ記念ケアセンター」(80床)建設(90年)
▽周辺3町の協力と国県などの補助で第2松丘園(入所・ショートステ計70床)建設(97年)
▽隣接の千葉県山田町(現・香取市)に山田特養ホーム(入所・ショートステイ計80床)建設(2004年)
このほか、新病棟建設(1999、2000年)や身体障害者療護施設「聖マーガレットホーム」の新設(80床・95年)、少し離れた市にある経営難の老健を医療法人から移譲(2008年)したり、二つの特養の改築や新館による増床(2011~12年)、訪問看護ステーション、ホームヘルパーステーション設置などを進めてきた。
特に2000年の介護保険スタート後、事業拡充に拍車がかかった。今春には廃園になった保育所を改修し、新たなデイサービス施設もオープンする。「仕組みに振り回されすぎ」との声もないわけではないが、40歳以上の国民から保険料を集め、利用料も課すだけに、「保険あってサービスなし」の事態を避けたい自治体をフォローしつつ、駅前福祉村構想など行政施策の一歩先を行こうとしている。
「目の前に困っている人がいる。だから私たちはやって来ました。地域ともつながっていると自負しています。この上もっと社会貢献をと言われても正直ピンときません。しかも施設建設費の補助率は下げられ、大規模補修の補助金はゼロに等しい。加えてこの4月からまた介護報酬カットですからね」と井上理事長は不満を隠さない。そして言葉を継いだ。「社会福祉法人はPR下手。というより、黙して世のため人のため尽くせと教えられてきたんです」。
昨年11月21日夜。千葉県匝瑳市役所わきに建つ市民ふれあいセンターの大ホール(定員500人)は9割方埋まっていた。社会福祉法人「九十九里ホーム」の第24回法人内研究発表会。9拠点21事業所のスタッフが年1回、学会形式で仕事の成果を報告しあう。
「認知症になっても笑顔で暮らせるように~行動障害改善に向けた取り組み」(特養・介護職員)、「看護支援システム導入に関する経過報告」(病院・看護師)、「認知症短期集中リハ終了後のケアについて」(老健・作業療法士、理学療法士)、「地域で暮らしている障害者の豊かな生活を目指して」(障害者支援施設・生活相談員)。パワーポイントの大型画面やレジュメを使い1人10分前後で発表していく。講評は病院長、施設長クラスが担う。
法人職員約800人の半分ほどが集うホールは20~30代の若手が目立つ。互いの仕事を知り、チームワークを育む。近ごろ介護への苦情が増える中で、「研修会の効果を疑問視する向きもあります。でもケアの質向上には、遠回りに見えてもこれしかありません」と井上理事長。
人を支えるには、まず支え手から−−福祉の原点は人づくりとの信念である。
(横田一)
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