社会福祉法人風土記<6>愛友園 戦後編 下 

2015年1029 福祉新聞編集部
玄関を飾る60枚の陶板を組み合わせた陶壁画

 愛友園を訪れた人をびっくりさせるのが玄関脇に腰を据える大きな甕、そして玄関に入ると右の壁面全体を飾る天女を彷彿とさせる美しい女性と土器などを描いた陶壁画。園全体で取り組んだ陶芸の成果だ。

 

 50年ほど前のこと、ハーバート・ニコルソンの長男、サムエル・ニコルソンが茨城県内の下妻地区で布教活動中に陶芸の里・笠間で陶芸を覚え、愛友園のクラブ活動に取り入れたらどうかと提案してきたのが始まりだ。

 

陶芸で生きがい

 

 それまで、生け花や菊作りなどをしてきたが、利用者の乗りが今一つだった。試みに陶芸を始めてみると、高齢者たちは夢中になって土をこね始めた。サムエルは「この土は私どもと一緒なんだ。私どもも死ねば土になるのだ」と土への深い思いを山口晋園長に語り、山口園長も「素晴らしいことを言ってくれた」と感動し、施設ぐるみ陶芸に取り組むことになった。その際の心情を書き残している。

 

 「やがて土に還ってゆく老人の生き甲斐のためにこの陶器が尊い一役を果たしております」(『省みて―ニコルソン先生と福祉の心』)と。

 

 山口園長は職員とともに、笠間の窯業指導所の協力で作陶技術を学び、高齢者に適した手びねりの技法を工夫し、1965(昭和40)年、園内に陶芸教室を開講。全職員と地域住民にも参加を呼び掛けた。当初は外部の窯を利用していたが、作品数が増えるにつれ、窯を独自に作る必要に迫られ、共同募金会からの配分金を基に、本格的な電気窯とガス窯を施設内に設置するまでになった。

 

 そのころを知っている管理栄養士の矢代あや子さん(60)は「山口園長は、食事をさせて、入浴させて、ただ預かっているだけでは福祉ではないとおっしゃっていました。利用者さんらと一緒になって陶芸に夢中になっていた時期もあり、県の監査があるときでも作務衣姿でした。書類がそろっていなかったのを指摘された時には、『お年寄りの皆さんが生き生きしている姿を見れば、どんな介護をしているか分かるだろう』と、かわしたこともありました」と懐かしむ。

 

陶芸作品が続々入選

 

 利用者や職員たちもひた向きに土をこね、腕を磨いた。1970(昭和45)年からは県展に出品した利用者、職員、地域住民の作品が続々と入選するようにもなった。

 

自作のつぼの前で。山口保雄理事長

自作のつぼの前で。山口保雄理事長

 

 地域に開かれた事業に「老いの花相談所」もある。徘徊や不眠など介護について山口園長が相談に乗る。処遇困難な高齢者がいた場合は「かけこみ宿」として2、3日預かる制度も設けた。お金のない人は無料で受け入れ、その間に行政、病院、家族との連絡調整をしながら、入院などの対応を行った。愛友園は、1986(昭和61)年から園舎の全面改築を機に、養護老人ホームと特別養護老人ホームを同一施設内に開設した。

 

 エネルギッシュに働いてきた山口園長だったが、苦楽を共にしてきた83歳の妻・芳枝さんに先立たれた。ハーバート・ニコルソンとの出会いが縁で知り合い、信仰を同じくして結婚し、施設の運営面でも陰の支えだっただけに、山口園長は力を落としたのか3年後の2000(平成12)年、後を追うように死去、享年89歳だった。

 

 理事長職は、光学機器メーカーの技術畑の幹部だった長男の山口保雄・現理事長が継いだ。保雄理事長は「施設の改築時の借金1億3000万円が残っていて、父親と共に自分も保証人になっていた。借り入れの際、躊躇はしたが父親の夢を叶えるためだったので判を押した経緯がある。長男でもあるし、理事長も引き受けるしかないと思った」という。

 

 保雄理事長は「福祉職場は民間企業に比べ無駄が目につく」と感じ、さまざまな職場改善運動に取り組んでいる。経費の削減のほか、看護・介護職員が利用者にかかわる時間を少しでも多くするために、「記録」を一枚の用紙に効率的効果的に記入できるよう工夫した。それまでは養護、特養からの日誌は施設長の机に置かれ、承認印が押されると各現場に戻される方式だったが、日誌は現場に置き、介護職員同士がいつでも読め、情報を共有できるようにし、施設長が巡回した際に確認印を押すよう改めた。「ヒヤリハット」の記録、報告は各職場で継続管理している。経費は節約しても利用者への支出は惜しまず、新鮮で安く購入できる地元の食材の提供などは心掛け、養護・特養ホームのお年寄りには同県内の那珂湊港の回転すしで外食を楽しむ機会も設けている。

 

 養護老人ホームの現状について、「国から市町村に措置権限が移譲されている状況下で、措置委託が減少している。市町村が措置を控えているからだ。このため、養護老人ホームの中には経営が苦しくなっているところが出てきている」と指摘する。

 

 「私はニコルソン先生や父・晋のようなクエーカー教徒ではない」と保雄理事長はいうが、受け継がれた福祉の心と正義感は脈々と生きている。

 

(若林平太)

 

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