土や砂遊びで自主性 意欲と社会性育む〈済生会松山乳児保育園・愛媛〉

2025年0727 福祉新聞編集部
全身で絵を描く2歳児=松山乳児保育園提供

水や砂、土など自然の素材を使った遊びやボディー・ペインティングを通し、松山市の済生会松山乳児保育園(稲葉雅美園長、定員60人)はこども中心の「創造主義的造形保育」を展開中だ。毎年、愛媛県立美術館で0~2歳児の作品展を開くなど、活動は全国的に注目されている。

0歳児から2歳児まで56人が年齢別に4クラスに分かれて日中を過ごす。雨模様だったこの日、1歳児は室内で粘土(アレルギー予防の寒天と食用色素を使ったもの)を黙々とひねり、別のクラスの1歳児は新聞の広告紙を破り、丸め、かぶって遊んでいた。みな自分に集中し、ちょっかいを出し合うこともない。思い思いに楽しそうだ。

片や2歳児は園庭で泥をこね、砂の山や泥だんご作りなど、おのおので興じている。泥んこ遊びに近い。「家でしたら怒られるでしょうが、ここでは自由。保育士は見守るだけ。環境を用意し、口出しはしません」と稲葉園長(58)。終わればシャワーで体を洗う。

造形保育導入のきっかけは1970~80年代の小中学校現場の荒れ、その後不登校や引きこもりなど、こどもの心の問題がクローズアップされたこと。乳幼児期の育ち方を問う声が上がり、初代の故永田冨美子園長は創造美育協会(戦後、児童の個性を伸ばす新しい美術教育を掲げた団体)の活動を取り入れようとした。豊かになる一方、自然や実生活の体験が希薄になる中で、3代目の田中美紀園長は、福井県若狭町内の保育所などでこの美育を実践する現代美術作家、長谷光城さん(81)=若狭ものづくり美学舎代表、元福井県立高校長=に相談。全職員が交代で同町へ見学に行き、2007年から園内での〝玩具ゼロ〟に着手、09年には園庭からブランコや滑り台など遊具も撤去した。

代わりに整えたのが自然素材を重視した砂場や小さな土山、水場。こどもにとって手触りのよい細かで固まりにくい土を砥と部べ焼で知られる愛媛県砥部町近くで探して運んだ。

土をこね、水を流し、手で絵の具を紙に塗っていくフインガー・ペインティングなどは、遊びを兼ねた造形活動だ。やりたいことを自分で見つけ、深め、友だちと遊び合うことで意欲と社会性の芽を育む。十分話せない、文字を持たない乳幼児にとって、絵は最大の表現・伝達手段でもある。

次の武智孝子園長時代の14年、県立美術館で「第1回いのちかがやく子ども美術展」を開催した。5代目の稲葉園長になってさらに充実、今年2月の第12回展には縦横各4メートルほどの大きな紙に1~2歳児が全身で描いた迫力ある大作など0~3歳59人の計159点が並んだ。

「ひとつの乳児園でこれほど見応えのある大きな展覧会を開くところはないでしょう」と長年、同展を見てきた長谷さんは感心し、「厚生労働省の保育所保育指針(17年改訂、18年施行)でも1、2歳児の美術活動の必要性が新たに規定されています」と強調した。

稲葉園長は「こども同士でモノを取り合う姿は見なくなった。脳と手の働きの基礎を育て、生きる力や意欲、社会性を伸ばせたらうれしい」と話している。


済生会松山乳児保育園 1969年、愛媛県済生会松山病院の近くにオープン。職員27人。平屋建て園舎ホールの開閉式屋根(約54平方メートル)を開くと陽光が注ぐ。園内に遊具、テレビ・ビデオはなく、あるのは絵本だけ。こどもの手の大きさにあった砥部焼の食器を特注、おむつは布製を使う。病院は92年、南に1キロの松山市内へ在宅強化型の老人保健施設と接する格好で移転新築した。

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