認知症の人の暮らしで配慮すること〈高齢者のリハビリ〉

2023年0421 福祉新聞編集部

 わが国では高齢化に伴い、認知症の人も増加しています。2025年には人口の30%以上が65歳以上、18%以上が75歳以上の高齢者となります。年齢を重ねると認知症の人は増えることが予想され、その分だけ家族や介護スタッフのサポートが必要となります。

 

 訪問リハビリで私が関わっている認知症の人の生活や問題、対応の一例を紹介します。

 

 訪問リハビリを受けているAさんは94歳。ご主人と2人暮らしです。Aさんは足を骨折して以降、自宅内の移動は歩行器を使用し、ご主人の介助を受けながらの生活です。Aさんとご主人はともに認知機能が低下し、物忘れや見当識障害(自分のいる場所や日付がわからない)などの症状がみられていました。2人にはこどもがいないので家族からの支援はありません。いわゆる老老介護の状況で、介護保険のサポートがないと生活できない状態です。

 

 私が訪問するといつもご主人が迎えてくれます。

 

 「あれ、今日リハビリだっけ?」とご主人。

 

 「はい、今日は水曜日なので訪問リハビリの日となっております」と私。

 

 「あーそうだったな。なんだか、最近忘れっぽくてね。ダメだなー」と、ご主人はリハビリの日程を把握しておらず、最初にお伺いしたころから数回このようなやりとりが繰り返されました。

 

 訪問リハビリではAさんに限らず、ほかの家族でもこのような場面がよくあります。せっかく訪問しても、本人や家族が予定を忘れて留守にしている、などといったこともよくあります。

 

 Aさん宅には担当のケアマネジャーが作成した週間予定表(介護保険サービスがいつあるか把握できる表)が貼られているので、私はご主人に覚えていていただこうと、その週間予定表の訪問リハビリの日に赤く丸をつけていました。しかし、それでもご主人はその日を覚えてくれませんでした。

 

 そのような状況で何度か訪問しているうちに、リビングに文字がたくさん書き込まれているカレンダーを見つけました。

 

 「だいたいのことはこのカレンダーに書いているんだよ」とご主人が話してくれました。そこで私は週間予定表ではなく、そのカレンダーにリハビリの日程を大きく記載し、赤印で丸をつけました。それからはご主人がリハビリの日程を忘れることは少なくなりました。

 

 「ご主人は週間予定表とカレンダーとを照らし合わすことでは、リハビリの日程を把握することができていなかったのだ」と私は思いました。

 

 記憶障害がある人に対しては、外的補助手段の一つとしてメモをすることは有効です。しかし、そのメモはどこに書いても良い、というわけではなく、ご本人の目にきちんと留まるところに記載しなければ意味がありません。このご主人のように、カレンダー以外の貼り紙には注意がいかないなどといったことがあれば、注意が向くところで対応を考えることが必要です。その方の生活環境や習慣、思考や行動のパターンなどに合わせた対応が必要だと改めて感じました。

 

筆者=瀬古啓介 原宿リハビリテーション病院 主任

監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長
 

 

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