〈論説〉高額療養費の迷走 私たちと会話してください
2025年03月22日 福祉新聞編集部
過大な自己負担を避ける「高額療養費」制度の改定案は二転、三転、ついに見送りに追い込まれた。
石破茂政権の少数与党の非力さ以上に、当事者への事情聴取を怠って負担限度額の大幅引き上げに走ったのが主因だろう。
「全国がん患者団体連合会」(全がん連)は、寝耳に水の引き上げ案に驚き、1月、急きょアンケートを募った。わずか3日間で3623人の声が殺到した。
改めて若い世代に絞り、幾つか紹介する(同会ホームページで閲覧可能、趣旨を生かして簡略化)。
「(治療が難しい)スキルス胃がん患者です。小さな子を遺して死ねません。高額療養費制度を使っていますが、支払いは苦しい。家族に申し訳ない。引き上げを知り、泣きました」
「社会人3年目、手取り月20万円ほど、上限負担の8万円余で乳がん治療を続けています。負担額が少ないのは分かっていますが、手取りの半分が毎月飛び、生活はすでにカツカツ」
いずれも20代の女性。
「副作用で仕事を休み、収入は減り、どれだけ高額療養費に助けられたか。私の場合月6万円上限だったが、それでも大変でした」
「お金が払えないなら生きるな、と言われているように感じました」
いずれも30代の男性。がん以外の患者も多い。
「入院は長期になる場合がほとんど。休職になり給料も下がる」「就労ができず、収入を得られない観点が忘れられている」
いずれも30代の男性たち。専門職の声も多い。
「白血病を患いながら小、高校生を育てています。薬代を考えると将来が不安。せめて『多数回該当』(限度額超の4回目以降は負担が減る)への配慮を」(介護支援専門員の40代女性)
「治療薬の超高額化は頭が痛い。現状でも現役世代から『高額で払えない』との相談が多い」(30代の男性医師)。「治療に経済的な限界を感じる患者を間々目の当たりにします」(40代の女性看護師)。
これらの声を代表するかのように、30代の男性がん患者はこう訴えた。
「私たち世代の実情を聴いてください。見てください。〝会話〟をしてください。その上で、面と向かって政治家の皆さま方が本心で値上げをすると伝わるならば、私たちも納得します」
現状を調べ、話し合ってなお無慈悲なことを言えるのか、と迫っているのだ。
医療の課題は山積みする。医薬品だけでも重複・過剰投与が目立つ。効果に疑義を伴う高額薬もある。湿布や保湿剤まで保険対象の過剰適用も止まない。
巨費を保険料と公費でどう分担するか。自己負担分への応能負担の適用はどこまで許されるか。それもこれもアンケートに耳を傾けながら医療と医療保険のあるべき全体像を論議してほしい。
みやたけ・ごう 毎日新聞論説副委員長から埼玉県立大、目白大大学院の教授などを経て現職