知的障害の次男を殺害した78歳父親に執行猶予判決 千葉地裁「福祉不十分で絶望的」
2025年03月25日 福祉新聞編集部
千葉県内の自宅で重い知的障害がある次男清泰さん(当時44)の首を、テレビアンテナのコードで絞めて殺害したとして、殺人罪に問われた父親の平之内俊夫被告(78)の裁判員裁判で、千葉地裁(浅香竜太裁判長)は12日、懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役5年)の判決を言い渡した。
福祉不十分で絶望的
清泰さんの長期入所施設が見つからなかった点を踏まえ、「十分な福祉的支援が受けられない絶望的な状況にあった。被告だけを責めるのは酷だ」とし、非難の度合いは強くないと判断した。
検察は「被告は『親が責任を持って介護するべき』という考えに固執した。短絡的で身勝手な犯行だ」と主張していたが、判決はそれを退けた。
検察が示した争点の一つは「被告をどの程度非難できるか」だ。
障害福祉のありようも問われることから福祉関係者の間で注目され、3回の公判には傍聴希望者が殺到。判決は同地裁で最も大きい法廷(98席)で言い渡された。
「迷惑かけられない」
事件は2024年7月に発生。自傷行為や暴力が日常的だった清泰さんと両親は同年5月末まで神奈川県内に住み、県立の障害者支援施設「中井やまゆり園」の短期入所を利用していた。
両親は自宅での介護は限界だとして長期入所を希望していたが、同園は不祥事により新規入所を停止中だった。他施設でも受け入れ先はなく、「近所に迷惑を掛けられない。広い家で介護するしかない」と千葉県長生村に転居した。
神奈川県職員が証言
こうした経緯を重くみた神奈川県は第三者を交えて検証を行い、同年12月に中間報告を発表。2月17日の初公判には、中井やまゆり園に勤める県職員が出廷した。
この職員は証人尋問で「今思えば無理をしてでも清泰さんを園で受け入れるべきだった。厳しい目を向けるべきは、今の障害福祉の制度だ」と述べた。
判決後の会見で裁判員の一人(男性、50代)は「審理するに当たり、神奈川の福祉をめぐる情報は十分得た。今回の事件は誰にでも起こり得るものだと思った。社会全体で支える制度にするべきだ」と語った。