〈論説〉年金制度の改定へ イロハのイから始めよう

2024年1224 福祉新聞編集部

日本の年金制度の弱点は何か。

長年の私見だが、大半の人々が「年金をもらう、もらえない」と語ることだ。本来「年金保険」は、保険料納付に応じ受け取る仕組みだが、なぜ「もらう意識」が生じるのか。

象徴的なのは専業主婦(3号被保険者、主夫を含む)で、夫ら勤め人全体(2号)に負担してもらい、保険料を払わず基礎年金を手にする。もらう気持ちになるのも無理はない。

勤め人も給与から保険料を天引きされ、制度の運営などに直接の発言権はない。あなた任せでは権利意識は育たない。

ドイツの年金制度を初めて調査した時、加入者が選挙で選ぶ議員による自治運営に驚いた。ベルリンの一般制度(日本の厚生年金相当)の本部で、幹部は「国が規則のほとんどを定めるが、独自の上乗せ給付や負担などは我々で決める」と語った。「社会保険の母国」の伝統と誇りは「もらう意識」と対極にある。

英語でも保険料はContribution、給付はBenefitと表現される。

この貢献をすれば利益を得られる緊張関係を、年金制度の改良・改革の根底に置くべきではないか。

その意味で、来春の改定へ、「106万円の壁」(被用者保険の適用基準)を撤廃する厚生労働省の方針は重要な転機になる。

主婦パートらは、月額8万8000円(年収106万円)超で厚生年金と健康保険の加入対象にされる。このため働きを控え、壁の内側にこもりがちだ。最低賃金の引き上げにつれ、自然に壁を超える傾向も追い風に、非正規労働者らを含め自ら待遇や老後の安定を目指す意義は大きい。「年金をもらう意識」も薄れるだろう。

制度改定へ向け、「マクロ経済スライド」「在職老齢年金」など難しい言葉が飛び交う。果たして制度の基本は理解されているのか。

3年に1度の「国民年金被保険者実態調査」(最新2020年度、有効回答約1万9000人)が現状を示す。

基礎年金の受給に必要な納付期間は10年以上(免除期間含む)について、周知度は49%、基礎年金の半分は国庫補助、を知るのは何と33%に過ぎない。

民間保険とは異なり物価や生活水準の変化に応じ、なるべく実質価値を維持する(周知度38%)。加入期間中に病気やケガで一定以上の障害が残ると障害年金が出る(同67%)。

いずれも前回調査より周知度は下がって深刻だ。そのせいか、滞納者のうち35歳以上の半数は生命保険や個人年金に加入していた。個人年金では平均月1万3000円払う(当時の国民年金1万6540円)。

政治も行政もメディアも、改めて年金の意義や仕組みを理解してもらう工夫と努力に迫られている。


みやたけ・ごう NPO法人福祉フォーラム・ジャパン副会長、学校法人・社会医学技術学院理事