〈宮武剛の論説〉初の在宅医療テキスト 介護を大事にする医師を

2024年0902 福祉新聞編集部

「在宅医療・治し支える医療の概念と実践」が出版された(中央法規、本体3800円)。

本の帯で「在宅医療の概念を明らかにし、体系的にまとめた本邦初の」とうたう。なるほど大学医学部には在宅医療の定番テキストはまだ無いようだ。

監修者には横倉義武・日本医師会名誉会長、大島伸一・長寿医療研究センター名誉総長、辻哲夫・元厚生労働省事務次官、新田國夫・日本在宅ケアアライアンス理事長と、実務の第一人者が並ぶのも、初の試みらしい。

分厚い275ページを拾い読みしてみよう。

1986年の診療報酬改定で、従来の「往診」とは別体系で、定期的に自宅等を訪ねる「訪問診療料」と「在宅医療指導管理料」が設けられた。92年の第2次医療法改正では、在宅医療が医療提供体制の一分野として法的に位置づけられた。「外来医療」「病院医療」に次ぐ、〝第三の医療〟である。

2000年度には介護保険法が施行された。福祉施設や老人病院に介護を頼っていた体制を改め、特に「在宅介護」が重視され、いわば「在宅医療」と車の両輪となる。「病院完結型医療」から「地域完結型医療」への転換でもある。

さらに地域で医療・介護・福祉の連携を進め、地域ぐるみで支え合う「地域包括ケアシステム」構築が大きな流れになった。

テキストは、在宅医療の今日的な意義をこう語る。

「在宅の患者は生活の場における自由な生活者で、医師ら多職種は患者と対等な立場で行動する」

「生命、生活、人生という、より幅のある概念のQOL(生活の質)をどう最大化するのか、現場実践と研究が極めて重要である」

「生活の充実や人生の満足という視点に関し、医師は他職種と対等な関係で十分な情報や意見の交換を行う」

裏返すと、医師が父親のように患者に対するパターナリズム、患者の生活や価値観を軽視した治療の最優先、チーム医療とは名ばかりの医師の独善が目立つ現状への反省と言える。

在宅医療の対象は「医療と介護のニーズを併せ持つ患者」と、テキストでは繰り返し強調される。だが、「医学生や医師が介護専門職の資格などに関することや介護の専門性に関する知識を学ぶ機会はほとんどない」と打ち明けた。

その意味でも医学部教育の変革が急務だ。文部科学省もすでに「多疾患の併存や、さまざまな社会的背景を有する患者らの割合の増大が見込まれ、これら患者・生活者を総合的にみる姿勢が医療人として求められる」とモデル・コア・カリキュラムを示す。

その教材に初の「在宅医療」テキストを採用してほしい。


みやたけ・ごう NPO法人福祉フォーラム・ジャパン副会長、学校法人・社会医学技術学院理事