[新機軸]今夏、医ケア者受け入れの生活介護開設 「生涯支援」のできるまちへ(滋賀)

2024年0208 福祉新聞編集部
入浴に訪れた医ケア児。看護師らが寄り添う

滋賀県日野町の社会福祉法人わたむきの里福祉会(東川嘉一理事長)は今夏、生活介護と放課後等デイサービス(放デイ)を併設した新事業所を開設する。生活介護では、医療的ケア者を初めて受け入れる。「生涯にわたる切れ目ない支援」を目指すまちづくりの新たな一歩。酒井了治・総合施設長(常務理事)は「日野モデルとして広がれば……」と話している。

 

新しい事業所の定員は生活介護20人、放デイ5人。年間予算は、約6000万円を見込む。

 

日野町社会福祉協議会が高齢者用に使っていた鉄骨平屋建ての施設と土地(370平方メートル)を、所有者の日野町から無償で借りる。夕方まで生活介護、その後、放デイに移る。人件費は看護師2人を含む職員11人で約4500万円。人件費比率(75%)は高いが、法人全体のやりくりで乗り切る。

看護師「やります」

医ケア者受け入れのネックの一つは、看護師必置に伴う人件費増。痰の吸引や酸素吸入など命に関わるケアが終始必要なので、しっかりした体制構築は不可欠だ。

 

だが、医ケア者受け入れに伴う加算は、看護師の人件費を出すのには程遠い。それに、看護師不足は深刻だ。同じ報酬単価(区分6)なので、重度の障害者を優先し、医ケア者は取り残されてしまうというのが現実だ。

 

この「壁」をどうクリアするのか。

 

「うちには、医ケア児を受け入れる放デイや重い障害のある利用者が通う作業所などに5人の看護師がいる。常時、命と向き合う仕事になるので慎重に検討したが、この5人が『できる、やろう』と言ってくれた。新たに看護師を雇わなくても、日々のやりくりで回せる。他の職員も全力で支援することを確認した」(酒井さん)。

日野システム

日野町の障害児(6~18歳)約90人は特別支援学校などを卒業後、わたむきが運営する定員合計120人の四つの作業所(就労継続支援B型、生活介護など)を利用できる。

 

一方、定員4~7人のグループホームが7ホーム(定員計39人)ある。この中には、重度の知的障害や行動障害、重症心身障害者に対応したホームもある。

 

医ケア児も受け入れているわたむきの放デイで学齢期から関わり、成人期には多様な作業所を用意。グループホームで末永く暮らす「ゆりかごから墓場まで」を合言葉にした地域づくりで、「日野システム」と呼んでいる。

親の孤独、孤立防ぐ

開設の伏線となる出来事があった。

 

一つは2006年12月に近隣の山中で起きた、父親による知的障害の姉妹を道連れにした心中だ。
姉妹は夏休みにわたむきに来ていたが、父親の苦悩に寄り添えず、当時の施設長は朝礼で涙ながらに「助けて、と言える地域づくりをしていこう」と呼び掛けた。

 

もう一つは、家族会の母親から「この子を看み取とるまで私は死ねない」と言われたことだ。

 

「生涯を貫くケア、地域づくりができていない証拠だ」

 

親のレスパイト(休息)、共生の地域づくり。踏み切れなかった医療的ケア者の受け入れにつながった。

 

わたむきの里福祉会 2001年4月、障害者の家族らの運動が実を結び、日野町から土地や建物の無償提供を受けて創設された。基本理念は「ノーマライゼーションのまちづくり」。就労継続支援B型や生活介護などの四つの作業所、放課後等デイサービス(登録40人)やヘルパーステーション、相談支援事業なども実施。7軒のグループホーム(合計定員39人)を展開している。米作りや特産物の「日野菜」の生産、加工を行い、一般家庭からの資源回収ステーションも運営。正職員68人、パートを含めると181人。通所利用者は120人。年間予算は約7億円。