新春インタビュー 椎屋浩昭・往還保育園長 人口減少がすべての遠因

2024年0110 福祉新聞編集部
椎屋浩昭・往還保育園長

今、社会福祉法人の「保育」は崖っぷちです。日向市も、人口減少が最も大きな課題です。8年前の出生数は約550人でしたが、昨年は約380人。利用者たる園児は減り続け、保育士の確保も厳しさが増しています。

 

日向市には養成校がなく、頼みの宮崎市の短大も定員割れ。どの職域よりも人口減のあおりが厳しいのが、利用者減と人材難のダブルパンチを受けている保育現場です。

 

根本的には定員区分を5人刻みなど、さらに細分化し、どんな過疎地域でも保育ができる制度を整え、予算をつけることです。共働きでも子育てができる社会の姿を示すことが、出生数の好転にもつながります。

 

保育職の志望者減の一因に、低賃金、過重労働などの負のイメージがあります。私見ですが、「8時間11時間問題」に触れます。

 

保育標準時間はかつて8時間が原則で、それに基づく措置費(現在の委託費)が算出されていました。1980年代に当時、社会問題化した「ベビーホテル問題」を受け、延長保育が始まり、実質的に11時間保育となり、2015年の子ども子育て支援新制度によって「11時間が標準時間」とされました。

 

ところが国は、8時間保育の仕組みをそのままにして、委託費も職員配置も抜本改正をせずにきました。24年度予算で、職員配置基準が見直されそうですが、焼け石に水です。現行制度が保育士の過重労働を招いているともいえ、11時間開所に見合った処遇改善、職員配置基準の見直しこそ急務です。

 

19年10月から始まった幼児教育・保育の無償化に伴い、「保育園枠」(2号認定)で通う園児を、国と自治体からの給付額が増える「幼稚園枠」(1号認定)に誘導する認定こども園が問題になり、昨年、会計検査院が調査に入った例もあります。

 

幼稚園枠への移行は保護者と園の直接契約なので自治体には見えにくく、これによって、使わなくても済むとみられる給付金(税金)を新たに数千万円単位で使ったケースも報告されています。

 

「公」から「民」へという国の大方針が、保育の現場にも競争原理を持ち込み、経営感覚が強まり、税金の使い道を危うくさせていると危惧しています。

 

認定こども園の設立、連携法人の提唱……。今の福祉業界は、営利企業の追い詰められた姿を追いかけているように見えて仕方ありません。

 

私は、福祉の理念を守るためには、公的な縛り(委託、措置等)を「よし」とするべきではないかと考えています。だから、私の園は「保育所」です。

 

園児が少なくなるからといって、保育所をなくしていいのでしょうか。一人でも保育を必要とするこどもがいる限り、保育所を存続させる。「利用者を第一に考え、誰一人として取り残さない」というのが福祉の原点、理念です。

 

しかし、理念を唱えるだけではだめです。実現させなければなりません。それには行政だけでなく、政治にも働き掛けていくことが大事です。

 

パーティー券のようなアプローチではなく、政治家と真摯に社会の在り方を考え、共に汗を流して行動する。根気よく継続的に実行していく。それによって互いの信頼を醸成して予算、制度をつくる。福祉の理念を実現していく。それこそが、地域に根差した福祉活動を担う、私たちの使命です。

 

しいや・ひろあき 宮崎県日向市出身。53歳。1992年春、大学卒業後、大手スーパーに就職。福岡市の九州本部でバイヤーの仕事に専念した。2003年に退社し、4月に往還保育園に入職。事務職、副園長を経て12年4月、園長に就任。宮崎県社会福祉経営者協議会理事。

 

往還福祉会 1979年6月、椎屋園長の父、善穏氏が初代理事長に就任し、宮崎県日向市大字財光寺に法人創設。80年4月、往還保育園を開園。初代園長に善穏氏の妻、知子氏が就任。1法人1施設を貫き、現在の理事長は第5代となる知子氏。園児定員は60人。職員数22人。延長保育や生後3カ月から就学前の児童の一時預かりも実施。保育方針は「生きる力の基礎を育む」。月に1回、家庭で子育て中の保護者を対象に「ニコニコくらぶ」を開いて、地域の子育て支援をしている。