社会福祉法人風土記<14>青垣園 下 始まった意識改革への道

2016年0829 福祉新聞編集部
救護施設のピロティでくつろぐ利用者

「民間でできることは民間で」。この十数年、福祉の世界で叫ばれてきたスローガンだ。株式会社までサービス競争に参入、社会福祉法人に対する風当たりは強まっている。

 

「私たちの仕事は公益事業だが、地域のニーズに本当に応えてきただろうか。措置から契約へと考え方が移りつつある競争の時代に、職員の資質・能力を上げなければ、地域の信頼を得られないのではないか」

 

と、奈良県大和高田市の社会福祉法人「青垣園」の松岡文男理事長(63)。このため一昨年秋の就任以来、年間約300万円をかけ、3年計画で職員研修に力を注いできた。心身に障害を持つ利用者の自立へつながる人材養成と支援体制の確立である。

 

その研修プランを担当する浅川惠美子・業務課人事管理主任(48)は管理栄養士として4年前、法人へ。産業カウンセラーの資格も持つ。大学を終えて食品会社に勤めたあと、総合病院で糖尿病患者の専門的な療養にかかわった。その縁でデンマークへ短期留学。障害者福祉について知ったことが今回の仕事のベースにある。そのあと何度か往復、帰国後、放送大学で心理学を修めた。

 

浅川惠美子主任

 

■研修「ハード」の声も

 

大学の研究者に教えを乞いながらプログラム作成に1年の準備を要した。大学教授、精神科医、介護食や衛生用品の会社員、障害者(自閉症)施設管理者ら園内外の講師をリストアップし、2014年2月スタート。新人、中堅、リーダー、管理職など階層別研修も並行して実施、多い人で年15回を数えた。忙しい仕事の合い間の〝勉強〟に「きつい」と本音も漏れた。

 

こうした施設内研修は全国的にはよくある。ただ、全員参加型で総合的な取り組みとなると、そうたくさんは見ない。浅川主任へ質問をぶつけた。

 

■利用者のため、社会のため

 

―研修前の園の空気は?

 

「全体的に向上心の弱さを感じました。昔から続けている方法でよいという雰囲気。一方、やはりそれじゃダメだという葛藤も。しかし出口が見つからないイライラ感が職員の間にはありました。それに、いくぶん閉鎖的でした」

 

―進めるにつき心した点は?

 

「1年目(2014年)は職業倫理や個人情報保護などじっくり理念を、2年目に入る前後から支援の実務(吐物処理、虐待防止、口腔ケア、介護食、ICFと生活支援技術、感染対策など)をやりました。

 

 

3年目の今年は自閉症、統合失調症といった病態、人事評価制度などへ広げた。1、2年目は仕事のやりくりで現場スタッフは大変でした。この間も外部研修へ職員をずっと派遣し、その成果を施設内研修などで報告してもらっています。昨年は全社協や県社協、鳥取県であったミュージックケアなど85件で人を送りました」

 

―変化は?

 

「利用者の意思を確かめるための声掛けでも『それは違うよ、こうだと思う』と助言しあうシーンが出てきた。小グループで話し合う姿もあります。自らの成長は自分のため、利用者のため、そして社会のためという感覚が芽生えるとよいのですが」

 

―川崎市の有料老人ホームで3人が転落死した。

 

「優しさだけで支援できる時代は終わっています。ケアに関する教育や技術が不可欠。ホームの管理者はどうしていたのか。個人の責任の問題ではありません」

 

―こちらでは?

 

「研修開始後ですが、新人職員には1年前後、先輩のプリセプター(指導員)をつけるようにしました」

 

■アセスメントをきっちり

 

―デンマーク福祉との違いは?

 

「デンマークでは誕生後すぐ一人ひとりにソーシャルワーカーが付く。何か問題があれば、その分野のソーシャルワーカーがやはり付きます。障害や疾患名にとらわれることなく当事者の能力を十分アセスメント(評価)し、『何を望んでいるか』を聞き取って対処法を決める。障害者の人生はむろん、親の人生も大事という発想。かかわり方のセンスが違う。私たちはこれまでのやり方を見直し、意識改革が求められています」

 

浅川主任はそう話した。

 

「利用者や地域と一体になった施設づくり」(松岡理事長)は緒に着いたばかりだ。

 

【横田一】