〈論説〉介護職の賃上げ 「特定最賃」使えるか
2025年04月30日 福祉新聞編集部
最低賃金(最賃)制度は2種類ある。「地域別最賃」は、これ以下の賃金で雇用してはならない基準を都道府県ごとに定める。
もう一つは「特定最賃」(旧名・産業別最賃)で、特定地域内で特定の産業・職業の労使に適用、地域別最賃より高く設定される。
この「特定最賃導入を検討する」と福岡資麿厚生労働相は語った(3月21日)。これに先立ち自民、公明党の両幹事長も同様の趣旨で一致したという(18日)。
欧米では産業別(職種)の労働組合が一般的で、例えば運輸分野ではトラック、タクシーなどの運転手、航空機のパイロット、整備士、外航、内航船員らで作る各労組が各使用者団体と労働条件を交渉し、最賃も決める。逆に日本では企業労組が圧倒的で、企業横断の最賃は例外的な事例だ。
現在は224件、適用の使用者約9万人、労働者約296万人。具体例は北海道の乳製品製造1048円(地域別最賃の時給よりプラス38円)、広島の船舶製造1080円(同60円)、愛媛の紙製造1050円(同94円)。
介護職の昨年の平均月給30万3000円は全産業平均の38万6000円に比べ8万3000円も低い(賞与込み、厚労省調べ)。政府、厚労省はさまざまな処遇改善加算で賃上げを進めるが、他産業との差を埋められない。人材倒産状態の介護現場さえある。その危機感が厚労相や与党幹部に特定最賃の検討を促した。
だが、難問は数多い。労使協議で協定を結ぶ仕組みだが、介護分野は労組の組織率が極端に低い。労使と公益の三者構成の地域最賃審議会もそのまま使えない。介護職の従業員集団、職能団体などを労組に準じる存在と認められるかどうか。
特定最賃の対象は施設を含む介護職全般にするのか。訪問介護に代表される在宅サービスに絞るのか。
より高い最賃を実施する際、その財源をどう捻出するか。介護保険は保険料と公費と利用料で成り立ち、公定価格である。民間サービスのように事業主の判断で値段を決められない。
特定最賃が導入される市町村は、その分だけ保険料を上げられるか。報酬を上乗せできるか。自治体も参画する交渉・調整の場を設ける必要はないのか。
保険料アップで財源の確保が難しいなら、他の方策はないか。地域包括ケア体制の構築を目指す「地域医療介護総合確保基金」の拡充で特定最賃の上乗せ分を支援できないか。中高年の再就職や若者、子育て女性らの就労を促進する雇用保険の「雇用安定事業」を拡大活用できないか。
どうも疑問符ばかり浮かぶが、それは特定最賃の導入が画期的な取り組みであるからだ。どう工夫すれば待遇改善の切り札に使えるか、まず介護職から風穴を空けてほしい。
みやたけ・ごう 毎日新聞論説副委員長から埼玉県立大、目白大大学院の教授などを経て現職