職住接近、街づくり始動 こども若者共生の拠点〈誠心会・神奈川〉
2025年04月24日 福祉新聞編集部
神奈川県横須賀市で認定こども園「しらかばこども園」や学童保育を運営する社会福祉法人誠心会(濵田徹理事長)は今春、園や学童保育のそばに職員の住まいを相次いで用意した。単なる職員宿舎ではなく、こどもや若者が互いに助け合いながら暮らせる「共生の街」をつくるための拠点と位置付けた。
誠心会が市内に用意した住まいは二つ。一つは、自主事業として4年前に始めた子育て相談窓口が入った一戸建ての民家だ。学童保育のそばにあり、2階を居住スペースに仕立てた。
ケアリーバーが入居
2月から住み始めたのはメイさん(19)。親から虐待され中学生の頃から児童養護施設で暮らしてきたが、昨年末、不本意な形で退所が決定。退所後の住まいは安心できる場ではなく、困惑するケアリーバー(社会的養護経験者)だった。
それを知った浜田和幸常務理事(65)は受け入れを即断。メイさんは3月に県内有数の進学校を卒業し、4月からは片道2時間かけて通う大学で福祉を学び始めた。
学業の合間に学童保育でアルバイトをするメイさんは貴重な戦力だ。「ここでは支援する側とされる側に分かれず、対等に暮らせる。今までの中で一番楽しい。将来はこどもがSOSを出しやすい社会にしたい」と話す。
メイさんとカーテンで部屋を分けて住み始めたのはソーシャルワーカーの岡本祐季さん(30)。学童保育で働き、子育て相談窓口の中心メンバーでもある働き頭だ。
もともと人と接するのが苦手だったという岡本さん。それまでの1人暮らしをやめ、メイさんとの距離の取り方に悩むこともあったが「メイさん以上に私が成長できた」とこの2カ月を振り返る。
シェアハウス開設
もう一つの住まいは学童保育の複数の男性職員が浜田常務理事に提案し、3月にオープンしたシェアハウス(民家)だ。職員3人が住み始めた。
そのうちの1人、高見純さん(26)は大学で福祉を学んでいたが体調を崩して休学。卒業はしたものの、すぐには働けなかった。料理やゲームが得意な松浦大弥さん(24)も約2年間引きこもりを経験した。
学童保育で働くものの、1人暮らしに踏み切れずにいた2人は、メイさんと岡本さんの暮らしぶりに刺激を受けた。現在、晩ご飯はメイさんの住む民家の1階で岡本さんと一緒に作って食べる。
高見さんは「人との交流によって新しい自分と出会い、一緒に成長できると考えてシェアハウスを提案した。いずれ、地域の若者が勉強しに来れるような場にしたい」と話す。
しらかばヴィレッジ
誠心会にとってこの二つの住まいは、将来への布石でもある。その近隣に小規模児童養護施設や、親を頼れない事情のある10代後半からの若者が暮らす自立援助ホームをつくる予定があるからだ。
学童保育のそばに住む職員たちが新しい施設やホームの職員になることも想定し、今のうちから住民と交流を重ねることでこどもや若者が気軽に立ち寄れる場にしたい――。そんな考えを「しらかばヴィレッジ(村)構想」として打ち出した。
メイさんが言うような「支援する側・される側に分かれない、対等な関係」がこのエリアにじわじわと広がっていけば、「共生の街」になると見込んだ。
神奈川県職員として児童相談所のケースワーカーを務めたことがある浜田常務理事は、自著に「私は少し曲がった人生を送る人が好きでつい応援したくなる」と記している。その言葉が息を吹き返して動き始めた。