介護DX化、大学と研究も よつば会などの特養、老健が地域医療連携法人に加入(滋賀)

2024年1101 福祉新聞編集部

滋賀県湖南地区の複数の高齢者施設が、DX(デジタルトランスフォーメーション)化に向けて動き始めた。地域医療連携推進法人に加入して、4年前から進む医療DXの輪に入って「医療・福祉DX」を構築。地域で要介護者らが常に、最適な施設や機関を利用できることを目指す。16日には、龍谷大とも連携協定を締結。地域が一つになって福祉・医療の実践・研究を行う、先駆的な地域包括ケアシステムが誕生する。

草津市の琵琶湖近く。21日の昼下がり、地域医療連携推進法人湖南メディカル・コンソーシアム(二之湯武史代表理事)を訪ねた。

「試験的に始めたばかりです」

理事で事務局長の蔭山裕之さんは、電子カルテなどの情報を集中管理するコマンドセンターで、こう話した。

利用者の流れ、的確に把握

試験的に始めたのは、社会福祉法人よつば会(中森寛理事長)をはじめ5法人の14特別養護老人ホームと2老人保健施設のDX化だ。

「それぞれの介護施設の利用率や空床数が一目で分かる。また、湖南地区の急性期や回復期の病床などの医療情報も容易に把握できる」と蔭山さん。

例えば、よつば会の特養で急患が出た場合、どの病院に行けばよいのか、手元のパソコンですぐに分かる。逆に、病院側は退院が決まった患者をどこの施設につなげばよいのか、スムーズにマッチングできる。

コンソーシアムには、医療法人やNPO法人と共に四つの社会福祉法人を含む34法人の115施設が加入している。

対象エリアは、大津、草津、守山、栗東、野洲市で、滋賀県の全人口(141万人)の約半数に当たる68万人をカバー。115施設のうち42施設は、特養や在宅介護など介護系サービスだ。

「隣接職種と言われるのに、医療と福祉の相互理解は深くない。社会福祉法人同士も、ライバルではなくて仲間……そんな意識の変革も、DX化を通じて進めます」

蔭山さんの言葉には終始、力がこもっていた。

介護を「知的」に味付け

コンソーシアムは16日、龍谷大社会学部社会学研究科と、農学部農学研究科の2者と、教育研究協力に関する包括連携協定を結んだ。

社会学研究科は、コンソーシアムがイオンモール草津で開設している医療と介護の相談窓口を通じて、児童母子、障害者、生活困窮者、高齢者らの諸課題を把握、コンソーシアムと研究会、講習会を共同運営する予定だ。

農学研究科は、フレイル(虚弱)予防を目的とした高齢者の食事指導教室の共同運営や、研究の実施を予定している。

よつば会の中森理事長は、「学生のころから介護現場を分かっていただくと、もう少し、いいイメージを持ってもらえると思っています」と話した。そして、「今後、大学や大学院のみなさんと、介護現場をフィールドにして実践・研究が進めば、単なるケアではなくて、エビデンスを重視する介護、アカデミックな介護職のイメージが生まれるのではないか」と期待した。

よつば会では「日常のケアをアカデミックにしていこう」と、研究発表会や業務発表会を実施。22日も、中森理事長がDXの進展などについて話した。

人材確保、コスト削減も

龍谷大との提携で、実習やインターンシップだけでなく、共同研究などによって介護現場への理解が進み、人材確保につながる可能性もある。大学院では、現場スタッフのリカレント(学び直し)教育も計画している。

一方、コンソーシアムでは、給与計算や物品購入など間接業務の統合も進めており、コスト削減にもつながっている。

福祉と医療の垣根がDXを通じて取り払われ、利用者の利便性を高める「湖南の取り組み」は、全国から注目され、コマンドセンターを視察する法人は後を絶たないという。