専門職配置し入所者の地域移行を支援 新たな道を模索する救護施設

2022年0420 福祉新聞編集部
相談者を受け止め、地域での暮らしに寄り添うのが大西さんだ

 救護施設が今、新たな道を模索しようとしている。これまで行政から措置された困窮者に対して、施設内で支援するのが中心だったが、精神障害のある入所者の地域移行や、地域に住む困窮者への支援など活動の幅を広げたい考えだ。必要な資金は赤い羽根福祉基金を活用し、3年前からさまざまな実践を行った。新たな可能性を開拓しようとする救護施設の動きを追う。

寄り添う支援

 「今度一緒に職場見学しましょう」――。

 

 2年前の秋。社会福祉法人みなと寮が運営する救護施設「千里寮」(大阪府吹田市)が借り上げた民間マンションの一室。生活支援員の大西睦高さんがこう話すと、相談者の40代男性は「そうですね」とつぶやいた。

 

 吹田市で1人暮らしという男性は、もともと工場勤務だった。しかし人間関係に悩んで統合失調症を発症し、精神科に入院。2019年1月から吹田市の措置で千里寮に入った。「規則正しい生活を送って体調が回復した。毎日話す友人ができたのも大きい」と男性は振り返る。

 

 9カ月ほどで措置解除が決定。その際、退所に向けて寄り添ったのが大西さんだった。

専門職の意義

 大西さんは千里寮で、入所者を対象に地域への移行と定着を支援する専門職。家探しから、退所後の生活相談まで幅広く支える。

 

 この3年で支援したのは50人以上。65歳以下のほとんどを一般就労や障害者雇用などにつなげてきた。

 

 「地域に出る際の見えないハードルは多い」と大西さん。例えば家探しでも、救護施設にいることを伝えると多くの不動産業者から門前払いされるという。行政や福祉サービスの手続きが分からない人も少なくない。

 

 当時、男性は週2回の家事サービスを受けながら、毎週大西さんと面談。男性は「大西さんがいるからこそ頑張れる面もある」と語っていた。

施設外でも支援

 千里寮には現在、20代から80代の150人が入所。障害者手帳を持つのは6割だが、ほぼ全員に何らかの障害があるという。

 

 「縦割りの福祉制度から漏れた人を受け入れ、支援計画を立て、自立を後押しするのが強み」と木島初正施設長は説明する。

 

 千里寮では1年で4割の入所者が入れ替わる。だからこそ担当職員が退所支援をするのは効率が悪かった。また退所後に地域で孤立するケースもあった。

 

 そんな課題を解決するのが大西さんだった。木島施設長は「法人の対外的な顔を配置した効果は大きい」と振り返る。福祉基金の助成は3月で終わったが、引き続き地域移行を支援する専門職は配置するという。

活動支える民間寄付

 救護施設の助成プログラムは、赤い羽根福祉資金に施設の保険を扱う福祉保険サービスが寄付した1億円が原資。1団体年1000万円を上限として最長3年助成する。

 

 テーマは地域移行支援や、地域の困窮者支援などで、いずれも制度では対応できない先駆的な取り組みとなっている。

 

 救護施設=日常生活が困難な人が入所する最後のセーフティーネットとなる生活保護施設。全国に約190カ所。入所者は1万7000人、うち9割に何らかの障害がある。7割が60歳以上、入所者のすべてが自治体からの措置。個別支援計画を立て、地域生活に向けた支援を行う「循環型施設」を掲げている。職員配置基準は5・4対1。