10代から走り続けた福祉経営者の現在地 初の著書「#ボクフク」を出版

2022年1109 福祉新聞PR

 

 福祉業界最大級の新卒向け福祉就職フェアなど様々な事業を仕掛けてきた河内崇典さん(46)がこのほど、「ぼくは福祉で生きることにした~お母ちゃんがくれた未来図」(水曜社)を出版した。障害福祉事業などを行うNPO法人み・らいずを立ち上げた経緯や、これまでの失敗談などを赤裸々に公開。「福祉に関わる人たちが、それぞれの原体験を発信することでイメージを変えていければ」と話す。19歳で立ち上げた大学サークルをそのまま法人化し、20年以上走り続けてきた経営者の現在地とは。

 

――意外にも本を出版されたのは初めてと伺いました。何かきっかけがあったのでしょうか。

 

もともと20代の頃からブログで仕事やプライベートなことなど様々なことを毎日書いていたんです。その延長線上で2020年からツイッターを始めました。そしてたまたま文章教室の先生と出会い、ツイッターの文章を毎日添削してくれるようになったんです。

 

1年ほど経った時、先生が「これまでの軌跡を本にしましょう」と言ってくれて。追加や修正を加えて出版することになりました。だから執筆期間でいうと20年以上かかってますね。

 

――これまでの失敗談も含めたエピソードも満載です。大学でも福祉を学んでいたわけではなかったんですね。

 

地元は大阪ですが、高校時代の成績は常に最下位でした。周りもやんちゃな子が多く進路もフリーターや専門学校への進学など様々。私も見事に浪人しました。

 

15校受けてようやく受かった近畿大学もすぐに行かなくなったんですよね。そんな1年生の夏に高校時代の友人から「めっちゃいいバイトあるんやけど」と言われて飛びついたのが、在宅で暮らす障害のある人への入浴介助の有償ボランティアでした。

 

――仕事はすぐにできたんですか。

 

「これは騙された」と思いましたね。あまり業務内容を知らないまま、高い時給に釣られて出かけたんです。

 

初日に連れて行かれた市営住宅には車いすに座った40代男性と、腰丸い小さな体のお母さんがいて。正直、障害者に対する偏見もありましたし、茶髪でチャラチャラしていた自分がやってよい仕事だとは思いませんでした。

 

2回目で正直に辞めますと言おうと思って利用者の家に出かけたんですよ。

 

ガチャリとドアを開けると、食卓に湯気を立てた唐揚げがてんこ盛りなんです。炊飯器にはパンパンに膨らんだご飯。やさしい笑顔で「先にご飯食べて」と言われ、お腹が膨れるほど食べたのを覚えています。

 

おかわりまでしたのに「辞めます」とはやっぱり言えなくて。そのままパンツ一丁でびしょびしょになりながら入浴介助をやりとげました。

 

終わった後、お母さんに「ありがとう」と言われたあの瞬間は、今でも忘れられないですね。こんな自分でも人の役に立てることがあるんだと気づきました。その日、私の人生が決まりました。

 

 

――その後、障害者の移動支援などを行う学生サークルを立ち上げ、大学卒業後の2001年にはヘルパー派遣などを行うNPO法人を設立されました。現在の事業規模はいかがですか。

 

ヘルパー派遣を行うヘルプ事業部、不登校や生活困窮世帯の子どもの支援を行うサポート事業部、発達障害のある子どもの療育を行うスクール事業部、障害者の就職支援を行うワークス事業の3本柱で運営しています。売上は約4億円です。

 

正職員は40人で、契約社員やアルバイトの大学生も入れると200人を超えています。

 

最近は子どもの居場所づくりを始めました。食事を提供できるカフェや、自由に使える部屋などを作り、親の状況に合わせて塾や習い事のように子育てをサポートする仕組みです。

 

かつては保育所に子どもを預けただけで白い目で見られた時代もありましたが、今はそんなことはありません。

 

今後は子どもの食事や入浴など子育ての一部をサポートし、地域みんなで子どもを見守る文化を作りたいと考えています。

 

――15年にはゆうゆう(北海道)の大原裕介理事長とタッグを組み、一般社団法人フェイストゥーフクシを設立し、新卒を対象にした福祉就職フェアも立ち上げています。

 

福祉業界全体が団結して、イメージアップを行うことが狙いでした。

 

当時は新卒を募集する時期も他業界と比べて圧倒的に遅く、パンフレットの表紙も建物や銅像の写真など昭和から変わっていない法人が少なくありませんでした。

 

また、福祉業界に特化した新卒採用媒体も少なかった。

 

だからフェイストゥーフクシは、就職フェアに出展法人を集めて、採用傾向の分析や、学生へのアプローチ方法、パンフやホームページの作り方などを意見交換する場を設けています。仲間を増やし、皆で一緒に成長するという文化を作りたいのです。

 

――この3年ほどは新型コロナウイルスによる影響も大きかったですね。

 

昨年はオンラインで約30回開催しました。最大30法人が参加する「大規模エリア型」、東北や九州などエリアを絞った「中規模エリア型」、事業内容ごとの「テーマ型」の3種類に分けて行いましたが、大変好評でした。

 

今年は東京・大阪・愛知で会場を使った対面形式を復活させるとともに、オンラインでも8回実施します。まだ出展は可能ですが、ありがたいことにすでに満員になった会場もあります。

 

また、最近の人材採用のトレンドに合わせて、福祉業界に特化した唯一のオファー型就職サイトFUKUROSS(フクロス)というサービスも開始しました。

 

これは福祉業界への就職に関心のある学生が、希望分野や勤務希望エリア、こだわりポイントを記入します。法人はそのプロフィールを閲覧し、マッチする学生に対して、直接説明会や施設見学などのオファーを送れるというサービスです。

 

従来の就職フェアは、法人がブースを構えて学生が来るのを待つ形で、しかも年に数回しかチャンスがない。大きな機会損失です。

 

ありがたいことに我々の就職フェアは、本気で福祉業界で仕事をしたいと考えている学生が多いのが特徴です。就職フェアでブースに来れなくても、開催終了後に法人から学生にアプローチしてもらえればと思っています。

 

 

――どんどん新しいアイデアが生まれ、事業化を進めていますね。これまでに影響を受けた人などはいるですか。

 

愛知県でグループホームなどを運営している社会福祉法人むそうの戸枝陽基さんや、復興庁参与も務めるダイバーシティ研究所代表理事の田村太郎さんなどです。年下だと、大阪で路上生活者の支援をしている川口加奈さんですね。

 

いずれも社会を変えるための情熱に心を揺さぶられてきました。本当に優れた指導者たちは誰よりも鋭い言葉を持っていると感じます。

 

私達も年々規模が大きくなってきましたが、目の前の困っている人にとって本当に必要なことは何かを考えるというスタンスは変わっていません。制度や立場にとらわれず、自分たちにできることを積み重ねていく。そのためには変わり続けることが必要だと思っています。

 

――それは本でも繰り返し訴えていることでもありますね。

 

出版にあたり改めて感じたのは、現在福祉に関わる人たちは皆、私が最初に入浴介助をした後に感じたように、何かしびれる体験をしているのではないかということです。

 

今後、本の題名にかけて、自分と福祉の関わりをツイッターでハッシュダグ「#ボクフク」を付けて発信するキャンペーンを始める予定です。それぞれが体験を発信することで、福祉現場のイメージが変わり、もっと若い人たちが目指す業界になると確信しています。

 

だからこそ現在の専攻に関わらず、多くの学生に読んでもらいたいと考えています。福祉の仕事は本当におもしろいですよ。飽き性な私が10代から始めて、今も続いているわけですから。

 ■出展法人募集■

 現在、就職フェアに参加する社会福祉法人やNPO法人などを募集中です。詳しくはホームページ (https://f2f.or.jp/meets/)で。締め切りは11月18日。