ヤングケアラー支援 母子生活支援施設のスキル生かす(大阪)

2023年1216 福祉新聞編集部
マンツーマンで学習支援する松下志帆さん(13日夜、ルフレ八尾サテライトホーム)

社会福祉法人八尾隣保館(荒井惠一理事長)は昨年7月から、中学生のヤングケアラーの学習支援と居場所づくりを進め、今春から高校生の支援も始めた。講師は大学生。学力向上だけでなく、ケアラー同士の交流も生まれ、大学生や職員も含めて、「共に学び成長する場」として育っている。来年度末までの大阪府のモデル事業だが、その後の発展が期待されている。

 

11月26日、JR大阪駅に直結したグランフロント大阪。「こどもみらいフォーラムおおさか」(住友生命福祉財団など主催)が開かれた。

 

「母子の特性を理解して、こどもの気持ちを日々受容している母子生活支援施設のノウハウを生かして支援しています」

 

八尾隣保館が運営する母子生活支援施設「ルフレ八尾」の母子支援員、松下志帆さんは、分科会でこう報告した。

 

ルフレ八尾は2014年9月、入居者だけでなく地域の中学生も対象に、受講料無料・年間教材費2500円で、学習支援「びはーと」をスタート。大学生や社会人が講師となり、英語と数学を90分ずつ週2回教えた。

 

「DV被害や経済的な理由で学習の機会や職業の選択肢が狭められたりしてはいけない」という、法人の強い思いからの地域貢献活動だった。

 

9年目に入った昨春、大阪府が「地域におけるヤングケアラー支援」のモデル事業を公募した。ルフレ八尾が実践している学習支援はこどもたちの居場所としての機能もある。大阪府から「びはーと」にこどもたちが楽しく過ごせるカフェのような空間や時間を加えた上、母子支援のノウハウを生かした支援展開を提案されて快諾した。

 

学習支援だけの時は、年間200万円の持ち出しだったが、府のモデル事業になったことで、府福祉基金から年間約500万円の助成を受けることになった。

 

松下さんは、20年度の国の「ヤングケアラー実態調査」の「中学2年生」のケースを引きながら、「求めている支援」の最多は、「学校の勉強や受験勉強などのサポート」(21・3%)だったと説明。地域には高校生の居場所が少ないことも指摘した。

 

また、「世話をしている家族がいる」と答えた中学2年生は5・7%だったが、「潜在的なヤングケアラーはもっといる。支援を通じて相談を受けるなかで、そう実感します」と話した。

 

現在、在籍する中高校生は12人。講師は大学生8、9人で、マンツーマンで90分の学習支援を行っている。その後の30分の交流タイムで月1回の誕生会などを企画。夏祭りやたこ焼きパーティーなどは、120分を丸ごと使って楽しむ。

 

講師の大学生の中には、ルフレ八尾の退居児童もいる。

 

年齢の近い大学生と話したり、ケアラー同士が仲良くなって「自分のような境遇は1人じゃないんだ」と思えて元気になったり、LINEでつながって情報交換したりするなど、明るい素材が増えている。

 

一方で、通えなくなる生徒もいる。

 

松下さんは「お母さんの思いやこどもの思いを代弁者として伝えていく、家族を見る視点……それが、母子生活支援施設で日々支援している専門職としてのノウハウを生かせるところ。今後、タブレットの活用など工夫を重ねて、『つながりの確保』と『居心地の良い環境』をつくっていきたい」と話す。

 

府のモデル事業は、24年度末までの3年間。今年度は、八尾隣保館や一般社団法人こもれび(大阪市西区、水流添綾代表)など11団体に委託し、総額約5000万円を助成した。事業を検証して、次の施策につなげていく。