車いすで変わる生活――座る姿勢の重要性〈高齢者のリハビリ〉
2023年07月21日 福祉新聞編集部本来、車いすは移動用の福祉用具であり、「いす」ではありません。車いすに座ると、シートの中央に仙骨部の体重が集中するので座り心地は悪く、長い時間は座れないものです。立ち上がったり、座り直したりと、姿勢を変えられれば苦痛は緩和されるでしょうが、障害のある人や高齢者は自分で姿勢を変えることができません。多くの人が車いすによる「座る苦痛」を味わっているのが現状かと思います。
そのため「ベッドで寝ていたい」という心理になり、ベッドで過ごす時間が増えていけば心身の機能は低下し、廃用症候群に陥ってしまいます。
車いすでの座位姿勢が崩れていると、滑落・転倒などのリスクが高くなります。骨折に至れば、その人のQOL(生活の質)は著しく低下します。
「車いすに座っていることは苦痛で不自然な姿勢になりやすい」ということを念頭に利用者の状態をよく観察することが必要です。
乗車時には可能な限り良い姿勢をとるため、車いすのシートを平坦な座面にするクッションを使うなどの対策が必要です。
車いすは利用者の体形・体格に合ったものを選ぶことが原則です。しかし、一度決まった車いすを何年も使っている人がいます。年月がたつと体形は変化し、車いすにもたわみが出てきます。定期的に利用者の体形と車いすの適合を確認しましょう。
次に代表的な疾患を挙げて座る姿勢の大切さについて述べます。
脳血管障害
脳血管障害では運動機能障害、嚥下障害、言語障害、高次脳機能障害などさまざまな障害が残ります。良好な姿勢をとることは筋の緊張を緩和し、まひの回復を促進します。嚥下障害の改善にも重要です。また、高次脳機能障害でまひ側への注意が向かない人に対しては、姿勢と周囲の環境を整えることで、まひ側への注意を促すことが可能となります。移動範囲を広げ、日常生活動作全体を向上させる上で、車いすが利用者の体形・体格に合ったものであり、そこで良好な座位姿勢を確保することが必要です。
廃用症候群
症状としては筋萎縮、関節拘縮、心肺機能低下、嚥下障害などがあり、早い時期から対策を講じなければ症状は急速に進行します。不必要な臥床をなくし、良好な座位姿勢を確保することが第一の対策です。生活が縮小しないようベッドから離れて過ごす時間をどのようにつくるかが課題です。
認知症
臥床時間が増えることで認知症はますます悪化します。離床を促していく上で、正しく座って楽に過ごせる環境を確保していくことが重要です。
自分からは心身の苦痛を訴えることができないことが多いので、注意深く見守る必要があります。
スタッフも、車いすに座って過ごす利用者体験をされるとよいでしょう。利用者の大変さを理解する上で必要かと思います。
適切な座位姿勢を実現するための参考資料も提示します。そのほか、一般社団法人日本車椅子シーティング財団のホームページもご参照ください。
筆者=今城真絵 赤羽リハビリテーション病院 副主任
監修=稲川利光 令和健康科学大学リハビリテーション学部長。カマチグループ関東本部リハビリテーション統括本部長