過ち語り継ぐ覚悟 虐待事件が変えた組織風土(愛光園・愛知)

2026年0721 福祉新聞編集部
虐待防止会議に参加する東さん(右)と日髙理事長

 元職員による利用者への虐待が発覚した愛知県の社会福祉法人愛光園(日髙啓治理事長)が組織改革を進めている。事件後に幹部職員の発案で再生プロジェクトを立ち上げ、虐待防止の仕組みを抜本的に見直し、外部の目を入れる体制を構築した。小さな違和感でもためらわずに共有し、組織全体で支援の方向性を議論する風土が根付きつつある。

青天の霹靂

 事件の発覚は2020年12月。同年7月まで臨時職員として知的障害者のグループホームで働いていた40代男性が、利用者の腹部を蹴り重傷を負わせたとして逮捕された。

 「まさに青天の霹靂だった」。当時、副理事長だった日髙理事長は振り返る。事前に警察から連絡はあったものの、詳しい内容は知らされなかった。

 日髙理事長には真面目な職員という印象が強く、信じられなかった。しかし、その後の捜査で暴行が事実と判明した。

 法人は21年1月、弁護士らによる第三者検証委員会を設置。理事長交代や役職者の処分なども進めた。そんな中、「自ら組織的要因を振り返らなければ再生はない」という声が管理職から上がった。同年6月、15人程度のプロジェクトを立ち上げ議論を重ねた。

 その結果、事件の背景の一つに、歴史ある法人としてのおごりがあったと結論付けた。簡単に権利侵害してしまいがちな立場にあるという認識も薄かった。

 法人本部の機能不全もあった。事件前にも元職員が担当する利用者が救急搬送されていたが、虐待を疑わなかった。

 こうした反省を踏まえ、虐待防止体制を刷新した。

 虐待防止指針と法人共通のフローチャートを整備、小さな違和感でも24時間以内に自治体に報告する仕組みを徹底。各事業所に、利用者や他事業所の管理者も加わる虐待防止委員会を設置した。

 さらに、2カ月ごとに全事業所を横断する虐待防止推進会議を開催し、事業所ごとの不適切事案やセルフチェックリストの結果を共有。参加するのは各事業所のマネジャークラスだ。ファシリテーターを務める東千恵子療育・相談グループ長は「研修だけで虐待は防げない。現場をつなぐ人材の成長こそが要だ」と力を込める。

ささいな変化逃さぬ

 「今回の事案を共有してください」

 6月下旬、東グループ長の呼び掛けで虐待防止会議が始まった。興奮した利用者をなだめようと、職員が頭の上に手を置いた事案。別の職員が「嫌そうな表情だった」と伝えたことから自ら申し出たが、自治体の調査で虐待は不認定だった。

 会議では職員から「感覚過敏はないのか」「利用者には自尊心もある」などの意見が相次いだ。アドバイザーとして参加している全国権利擁護支援ネットワークの今井友乃事務局長は「親のような態度で支援する例はよくある」と指摘。「利用者のささいな表情の変化に気付くのは良いこと」とフォローした。

通報件数は増加

 こうした体制を構築した結果、法人による自治体への虐待通報件数は事件前より増え、年7件程度に上る。

 しかし、日髙理事長は「虐待の認定件数は別だが、通報件数の増加を恥じることはない」と言い切る。この姿勢に自治体も理解を示しており、最悪の事態を繰り返さないための協力関係は強いという。

 その上で「風通しの良い組織に向けて、決めたことを粛々と積み重ねることが重要だ。今後も事件が風化しないよう、法人内で語り継いでいく」と決意を語った。


 愛光園 1965年、創設者の皿井寿子氏が愛知県大府市で、重い障害のあるこどもを対象にした通園施設を開設したのが始まり。当時、牧場を経営していた日髙理事長の祖父が土地を提供した縁で、3代目の理事長に就任した。現在、知多半島の北部でグループホーム17カ所や老人保健施設などを運営している。職員数は460人。

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