少子化対策、国一丸で 若い世代の所得増やす 末光茂 旭川荘名誉理事長
2025年01月05日 福祉新聞編集部わが国の少子化対策は、この40年で着実に充実してきた。出産費用の補助、医療費の無償化、保育所や義務教育の整備などが全国に浸透している。
しかし、2023年の合計特殊出生率を見ても、人口増減の分岐点とされる2・07人を大きく下回る1・20人。先進国のほとんどが、2・07人以下だが、日本は世界199位。中国(1・16人)、韓国(0・78人)ほどではないが厳しい。
国は、結婚やこどもを産み育てることに対する多様な価値観、考え方を尊重しつつ、若い世代の希望に沿った個人の幸福追求を支援することで、少子化トレンドを反転させようとしている。
具体的には、「若い世代の所得を増やす」「社会全体の構造・意識を変える」「すべての子育て世代を切れ目なく支援する」を挙げている。
一方で、日本は外からどう見られているか。
海外からの人材受け入れの講演会でのこと。円安に加えて、他のアジア各国での賃金アップに伴い、日本の魅力が弱まっているとの報告があった。
それに対して、子育て中のインドネシア人の母親は「子どもの将来のため、学費を積み立ててきた母国の基金が破綻し、多額の資金が失われた。日本では義務教育制度が完備しており、社会保障制度も充実している。賃金の多寡だけでなく、日本のトータルでの良さを知ってほしい」と語った。
もう一つは障害児を抱えた家族支援だ。昨年8月、シカゴで開催された第17回国際知的・発達障害学会で、「重症心身障害者へのよい実践」と題した基調講演を依頼された。
障害の最も重い「重症心身障害児(者)」の生命と尊厳が守られる世の中は、すべての人が安心して暮らせる世の中であり、そうありたいと願う家族と専門家の共働が国を動かし、医療と福祉を一体提供する世界に例のない法的入所施設「重症心身障害児(者)施設」が誕生した。そこを拠点に在宅・地域生活を支える体制も整備されるに至った。
その歩みと実態に対して、共感と「世界のモデル」との高い評価を得た。「発達障害者支援法」「医療的ケア児支援法」の意義も大きい。
このように、外から見た日本への評価は高いが、若者の実感は芳しくない。経済協力開発機構(OECD)は、大人が社会生活を送る上で必要な能力を測る「国際成人力調査」(PIAAC)で、日本はトップ水準にあるが、生活満足度は最下位だと報告している。
中でも若者に関して、これをどこまで縮められるかが「次の決め手」だと私は考える。環境整備とともに本人の自覚と努力も欠かせない。
まず就労について。失業率が他国に比べて低い中で、就業しても数年で退職する率が高く、職業選択面でのミスマッチが背景にある。高校生の時からの適切な指導と、本人の準備不足が指摘されている。
参考として知的・発達障害児者を対象とした4年制の「カレッジ旭川荘」での経験。この7年間で61人が入学してきたが、出身は特別支援学校(40人)だけでなく、通信教育と普通高校(21人)。そして就労した後のリスキング(学び直し)で入学。4年間の学びのあと卒業した23人は、自分の適性を見極めて就職先を選び、自信をもって巣立ち、定着している。
子育てを支える保育所や放課後デイサービスも数は普及しているが、障害児を抱える母親にとって子育てと就業の両立の壁は厚い。インクルーシブ保育・教育、いじめや不登校、ヤングケアラー、介護離職などの課題解決も急がねばならない。
国は、2030年代に入るまでに少子化傾向を反転させようとしている。「こども家庭庁」の創設への期待は大きく、「決め手」となり得るか。
ただし、すべてをこども家庭庁任せにするのではなく、内閣総理大臣をトップに、全省庁一丸となって「少子化問題」をわが事とし、最後の最後まで取り組む覚悟と体制を示すことが求められる。
それを、党派を超えた政治家や企業、労働組合、マスコミが先頭に立ち、国民挙げて「本気度」を示せば、若者も将来にわたる安心感を実感できるだろうし、時間はかかっても必ずや反転するものと私は信じる。そこでは障害の有無、国籍、人種、宗教などの違いを超越した「共生社会」への姿も見えてくるだろう。
すえみつ・しげる 1942年8月生まれ。松山市出身。67年岡山大医学部卒業(医学博士)、同年社会福祉法人旭川荘旭川児童院入職。2007年旭川荘理事長。23年名誉理事長に就任し、現在に至る。全国重症心身障害日中活動支援協議会長なども務める。